2017-07-24

第39回 進撃のナンパの鉄人たち

達人の短期集中講座

何度も書いているが、男とつるむことは嫌いではない。もちろん、性的嗜好は女性のみの異性愛者で、同性愛者でもない。LGBTSなどに関心がないわけではないが、おそらくそれらとは嗜好や性癖は異にするだろう。

前回、“人妻調達人の薫陶を受けることになるが、彼と、その仲間達のすごさを知るには、そう時間はかからなかった。奇想天外・大胆不敵・手練手管のナンパの鉄人達との邂逅はもうすぐだった”──と、書いた。まさに文字通り、彼らとの出会いは、郊外研修から数週間後のこと、間にはいった(仲介業者か?)フリーライターが宴席を設定してくれたのだ。これも広義の“アンド・フレンズ作戦”だが、短期集中講座の趣が強かった。ナンパ松下村塾(!?)へ入塾する。

人妻調達人こと、テレクラ・ナンパの鉄人、キャバクラ・バー・ナンパの鉄人、お見合いパーティ・ナンパの鉄人、パソ通ナンパの鉄人……など、まるで戦隊もののようだが、それぞれ個性豊かな鉄人が新宿の居酒屋に一堂に会する。鉄人達は、いまでいうイケメンとは違う、不適な面構えながら、女性から嫌われる要素は意図的に排除され、清潔感と快活さ、利発さがある。好かれる要素や空気を自然と身につけているかのようでもあった。

また、男女問わず、相手に嫌悪感や威圧感を与えてない、人当たりの良さも特色だろう。きっと、遊びだけでなく、仕事なども一緒にすれば、うまく行きそうだ(実際はわからないが)、そう思わせるものがある。当時、みな30代前半から40代前半までだったと思う。20代ではなかった。それぞれが“働き盛り・遊び盛り”、その中で“第二の青春時代”を迎えていた。その日は、彼らの武勇伝を聞くに留まったが、鉄人が一同に会したことを期に鉄人のナンパ講座≪実践編≫が始まる。元々、鉄人同志、面識や交流があるわけでなく、その仲介者がいて、揃い踏みとなった。せっかくの機会だからと、一緒に遊び、テクニックを競い合いましょうとなったのだ。つるむのも悪くない。いまでいうと、テレクラ・キャノンボール状態か。

私にとってもテレクラの密室空間からステージを変えての他流試合は望むところ。釣果が下がれば、釣り場を変える。内なる魚群探知機が移動を促しているのだろう。しばし、この祭りを楽しむことにする。

■鉄人ファイル1:人妻調達人こと、テレクラ・ナンパの鉄人

テレクラ・ナンパの鉄人については、前回、簡単に紹介したが、やはり、彼はテレクラに限らず、出会いのきっかけ作りの達人である。印象に残っているのは「『猫、かわいいね!』作戦」。たまたま、野良猫を見ていた女性に、この猫、かわいいねとさりげなく声をかけ、猫を介して会話を弾ませていく。実に自然な出会いの演出ではないだろうか。猫好きというだけで、女性の好感度は上がる。優しい人に見られるのかもしれない。もちろん、猫に対する広範な知識も必要だが、鉄人は彼に限らず、いろんな話題に対応すべく、ネタ仕込みを怠らないのが特徴でもある。

■鉄人ファイル2 キャバクラ・バー・ナンパの鉄人

「おいらは木こり」──キャバクラ・ナンパの鉄人は、嬢が着席するなり、そう自己紹介をしている。「おいら」と「木こり」、いきなり異次元の世界へと導く。私自身はとてもそんなことをいう勇気はないが、私は会社員──よりは数十倍、惹きがあるのではないだろうか。もちろん、引かれるのも覚悟の上。

同鉄人、40代前半で、仕事も通信関係勤務と固く、いわゆる普通の会社員のようだが、どこかバブル期特有の派手さも併せ持つ。仕事も休みなしで打ち込むも遊ぶことにも手を抜かない、生粋の遊び人である。

彼の鉄人としての素地は「銀座声掛け1000本ノック」にあったという。とにかく誰でもいいから気になった女性に「ホテル行きませんか?」と、声掛けをするというもの。断られたら、はい次、という感じで、くじける間もなく、何度でも何度でも声を掛け続ける。それを敢えて、ナンパには不似合いな銀座、かつ、「お茶しませんか」みたいなものではなく、「ホテルへ行きませんか?」というハードルの高い、口説き文句で試す。当然、反応はいいわけないが、それでもかけ続けることで、ナンパに成功し、いきなりホテルへということもある。無理と諦めず、やるか、やらないかだったら、やる。「おいらは木こり」同様、乱暴で、変則技かもしれないが、正攻法が正しいわけではない。

彼は数年後、テレビのバラエティに出演し、相変わらずの暴言(!?)を放つも会場は大ウケ。かの天才演出家からも絶賛されたという。
荒唐無稽の作戦ばかりかと思うと、バー・ナンパでは、女性が一人で飲みにくることが多いというバーに通いつめ、いきなりナンパなどせず、マスターと仲良くなり、常連となることから始める。そうすると、マスターがさりげなく、彼を一人で来ている女性に紹介するようになるという。そんな用意周到さと慎重さが彼の持ち味といっていいだろう。鉄人になるには、それなりの準備や修練が必要ということである。

このバー・ナンパ。実際に私も同席させていただいたが、コの字型のカウンターの正面ではなく、右角に座るという席取りが絶妙で、彼、マスター、そして、正面の女性と、いい感じの正三角形ができていた。わざとらしく移動することもなく、会話も自然と弾む。気づくと、彼らは2軒目へと繰り出していたのだった。

■鉄人ファイル3 お見合いパーティ・ナンパの鉄人

おそらく、鉄人の中では見た目や佇まい、物腰などは一番の好青年ではないだろうか。30代半ばのデザイナーだが、変にアーティスト然とせず、普通の会社員のようにも見える。娘の結婚相手に相応しいと、母親なら思うだろう。
そんな彼の強みが発揮されるのは、当時は“ねるとんパーティ”(当然、かのとんねるずの『ねるとん紅鯨団』から取られた)といわれたお見合いパーティである。お見合いパーティなど、古色蒼然としているが、いまだに婚活の一環として、市町村などの公的機関が主催して頻繁に行われている。彼はお見合いパーティに潜入し、好青年を装い、獲物(!?)を落としていく。結婚ではなく、もちろん、恋愛でもなく、目的はセックスである。そんな彼の目的に気づかず、彼を好青年と信じ、交際を望む女性は数知れず。あまりに熱心すぎ、すぐに両親を紹介されそうになったり、付きまとわれたといった危険な思いも度々しているという。当時のお見合いパーティは、まだ、遊び感覚というにはほど遠かったのだ。

彼のお見合いパーティ戦略だが、参加をせず、会場の前で待ちかまえ、カップルになれなかった女性を狙い撃ちするということも試したという。出会いたいという気持ちはあったが、参加してみたらこれはという男性はおらず、仕方なく帰るという女性である。出会いたい気持ちは上がっている、しかし、出会えない。そんな行き場のない気持ちをなんとか埋め合わせしたい。逆に会場でないところでの偶然の出会いこそ必然だった……みたいなドラマ性も生まれる。これはテレクラにおける日曜日の夜、『サザエさん』が終わった後、アポが取れやすいというのにも通じる。日曜日、何か、いいことがあるかなと思っていたが、何もなく、『サザエさん』も終わり、日曜日も残り少なく、明日の月曜日から仕事をしなければならない。その前、日曜の夜に素敵なことが起こるだろうと、テレクラに電話をしてしまう。実際、日曜日の夜は電話もアポも多く、マニアの間では狙い目と言われている。そんなお見合いパーティ場外戦、実際、彼らとともに会場前にたむろし、声かけしたこともある。残念ながら空振りだったが、数年後試してみたら、お茶をするくらいは出来た。

■鉄人ファイル4 パソコン通信・ナンパの鉄人

いまや、SNSの時代である。スマートフォンのLINEやツイッター、FBなどから自然と出会いが始まる。しかし、WINDOWS95もない時代。パソコンを利用するものはいてもインターネットは普及せず、まだ、ニフティサーブ(ニフティ株式会社が運営していたパソコン通信サービス)くらいである。そこには利用者の絶対数は少ないものの、利用者のみが交流できるフォーラムや掲示板などがあった。パソコン通信は今でいう“オタク”の溜まり場で、アニメや漫画、コスプレなど、非常にマニアックなトピックが多く、ネットユーザーがオンラインを離れ、実際にオフラインで出会うオフ会なども活発だった。

パソコン通信ナンパの鉄人はそこを利用し、出会いを模索していた。時には女性に扮して(ネカマという懐かしい言葉もあった!)相手の関心をつかみ、実際、会った時にカミングアウトするという戦法も取っていた。とりあえず、会ってしまえばこっちのものだという。彼は30代前半。仕事もパソコン関係である。仕事の合間の餌巻きは得意とするところだ。

ネカマになるのは、単純に女性を騙すだけでなく、パソ通上にいる男性がどんなやりとりをしているかを見るためだともいう。反面教師として勉強を積んだそうだ。彼の努力の賜物といえそうなのが、子育てに悩む主婦のフォーラムでのやりとりだという。自分なりに勉強をし、解決策を模索し、提案をしていった。その場所で絶対的な信頼を得て、時間を経て出会い、カミングアウトという算段を踏んでいる。面倒なことも厭わない、このマメさが鉄人たる所以か。

鉄人、団体戦に挑む!

当時も今も手っ取り早く、男と女が出会うのは、各々のコネクションを生かした合コンである。自分にとっては恋愛やセックスの対象でなくても他人にとってはその対象になる。新たな関係性が新たな恋愛やセックス対象を生むということもある。鉄人達である、合コンといえども邪さは忘れない。彼らは競ったりはしない。共闘して、団体戦を挑むのだ。流れを見て、誰を狙うかを男子トイレで打ち合わせ、カップルになりそうな機会があれば、さりげなく二人をまとめにかかる。密な話をしやすいように敢えて席を外すなんていう技を使うこともある。

また、仕込みなどは使わないが、鉄人はある程度、落とした女性と敢えて淫らな雰囲気を作ろうとする。むしろ、お持ち帰りされるところを見せつけるのだ。合コンとは言え、鉄人の目的はセックスである。“性の解放区”を合コン会場に現出させるのだ。ゆえに彼らのお持ち帰り率は上昇していく。団体戦といってもどこかの学生サークルのように強い酒を飲ませたり、酒に薬を混ぜたりなんいていうことは決してしない。それが鉄人なりの最低限の矜持でもある。

鉄人との短期集中合宿(!?)、いまでは懐かしい思い出だが、彼らの創意工夫、手練手管、発想の自由さと行動の大胆さ、失敗しても挫けず突き進む不退転の姿勢………彼らから学ぶことは多かった。いわゆる良識に照らし合わせ、かつ、当時の倫理観を鑑みれば、最低のゲス野郎である。しかし、敢えて低め打ち、来たボールはすべて打つという彼らは清々しくもあった。後年、恋愛工学などと喧伝され、その手法や思考が喧々囂々となっているが、ナンパの鉄人には、工学者にはないものを感じている。具体的に何がとは言いにくいが、敢えて偽悪的、極悪非道のろくでなしを装いつつも彼らの言葉やふるまいには情けも優しさもあったと思う。彼らの前向きさに勇気づけられもしたものだ。

ある意味、めちゃくちゃなナンパ術だが、かのフリーライターが知り合いの心理学者に聞いたところ、彼らの行動は「イエスの法則」や「フット・イン・ザ・ドア」、「ドア・イン・ザ・フェイス」など、セールスなどにも通用する心理学的なノウハウが引用されているという。彼らのやり方、実は乱暴に見えて、理にかなっているのだ。

テレクラから離れた課外授業。
彼らとの邂逅がある契機を与えてくれた。人の真似をするのではなく、自分なりの創意工夫、試行錯誤をすべきということ。同時にテレクラの黄金時代もそろそろ、終わろうとしていることも体感もしていた。それは次回に書くことにしよう。多分、次回がこの連載の最後になるはずだ。皆様とのお別れは悲しいが、その時はいつか必ずくるもの。感動のエピローグ(笑)を心して、お待ちいただきたい。