2016-02-25

第38回 平日昼顔人妻??Suburbia Suite(郊外居住者組曲)

年明け早々から“ゲス不倫”などという言葉が週刊誌や新聞、テレビ、ネットに飛び交う。喧しいことこの上もない。その是非を問うような立場にないが、情報管理はうまくやれよというしかないだろう。

そんな“不倫”だが、人妻達も勢いづいている。一昨年、2014年の流行語大賞にノミネートされたくらいだから、 “平日昼顔妻”という言葉も一般化しているのだろう。人妻達が平日の昼間に人知れず、不倫や乱倫を繰り返す。実は、そんな人妻達の“暴走”の萌芽は、20年以上も前にあったのだ。

“平日昼顔妻とは平日の朝、旦那を仕事に送り出したあと、午前中は家事をこなし、昼(午後)から夫以外の男性と恋に落ち、不倫をする主婦を意味する。主婦の浮気が増加傾向にあるとされる中、2014年7月〜9月に上戸彩が平日昼間に浮気をする妻を演じたドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』が放送された。ここから雑誌『DRESS』の編集長:山本由樹がこうした主婦に対する造語として平日昼顔妻がうまれた。ドラマタイトルであり、平日昼顔妻の『昼顔』はルイス・ブニュエル監督の映画タイトルからきている。1967年に上映されたフランス・イタリアの合作映画で、ジョゼフ・ケッセルの同名小説が原作、カトリーヌ・ドヌーヴが昼顔妻を演じた。なお、昼顔は2014年の新語・流行語大賞のノミネート語句となった”

と、俗語辞典を改めて丸写しさせていただくが、私がテレクラ男子(!?)だった1990年代前半、どうやら、国分寺、高円寺、吉祥寺などの中央線沿線のいわゆる3寺、そして三鷹、町田、八王子など、東京の郊外に人妻が平日の昼間、蠢いているという噂を耳にしていた。テレクラの談話室など、“テレクラ・カフェソサエティ”で、情報を収集し、交流を広げていたことは随分前に書いたと思う。どんな情報手段が発達しようと、口コミに勝る信頼度の高いものはない。そんな遊びのソサエティで、入手した噂と交流を手掛かりに、猟場、漁場を都心から東京の郊外へと移動する。

中央線沿線へ

昔から“くれない族の反乱”(くれない族は調べていただきたい。○○してくれないから来ていたと思う)など、郊外の人妻が密やかに蠢いていたが、それを目の当たりにするのはそう時間がかからなかった。

私は国分寺にあるヴィクトリーという店で、網を張ることにした。同店は中央線沿線に店舗展開をし、後に都内でも有数のテレクラチェーンとなるところである。

郊外には不倫願望を抱えた人妻がうじゃうじゃいる、そんな情報が遊び仲間の間で、出回っていた。男性週刊誌などでも度々、取り上げられていたのだ。漁場、狩場を移動する、当たりが悪くなれば、場所移動は必須。人妻の出没時間に合わせ、平日昼間に同所へ行くことにした。

中央線も国分寺までくると、吉祥寺や高円寺とは違い、流石に鄙びた感が増す。3寺特有のパンクスやヒッピーも少ないように感じた。商店街の外れには某有名スポーツ選手が引退後、始めた団子屋もあった。まずはみたらし団子で、腹ごしらえし、テレクラへ向かう。

テレクラは駅前の雑踏を過ぎ、少し静かな住宅街に入ったところにあった。特に華美な装飾もなく、看板が無ければ通り過ぎしてしまうところだ。

この日は珍しく、単独行ではなく、連れがいた。仕事仲間だが、フリーライターをしている遊び人。なんとなくの話からお互いの武勇伝(!?)を話し合うようになり、おもしろい人を紹介したいからとも言われていた。

勿論、人妻発生地帯を教えてくれたのも彼である。同世代だが、好奇心が旺盛で、風俗なども大好き。ソープからイメクラまでオールランドプレイヤーだ。

その彼が紹介してくれたのは、“人妻調達人”と異名を取る、システムエンジニア。30代前半で、エンジニアらしい知的さに、どこかしら遊び人を感じさせる雰囲気を纏う。容姿は嫌味のない好男子。美男子ではあるが、男にも好印象を抱かせる。また、話し方も丁寧ながら親しみがあり、自然な話しぶりはすんなりと相手の懐に入っていく。ある雑誌に頼まれ、グループ化する郊外の不倫人妻達を探し当て、週刊誌の人妻座談会を一瞬にしてキャスティングしたという逸話の持ち主。それも頷ける、出来る男である。

知り合いのフリーライターはそんな噂を聞きつけ、実際に仕事も頼んだこともあるらしいが、むしろ、彼の技術を習得するのが目的らしく、人妻調達人がフランチャイズするヴィクトリーを根城としていた。

私自身、弟子入りしたわけではないが、向学心が旺盛、かつ、男同志がつるむのは嫌いではない。これまでの遊びを通して、いくつもの裏のコネクションを築き、それが新たな女性の発掘にも繋がっている。アンド・フレンズ作戦など、この連載を始めた時に紹介したかもしれない。

そんなわけで、まずはお手並み拝見ではないが、人妻調達人の会話を横で聞くことから始める。

いきなりの禁じ手

ボックスの電話のベルが鳴り、すぐに取ると(同店は取り次ぎ制)、いきなり、「今日は何? これから会わない」と、畳み掛ける。テレクラの禁じ手といわれている、いきなり会おう攻撃である。どこの店でも、いきなり会う約束を取り付けるのではなく、じっくりと話しましょうと、店内にアドバイスめいた張り紙がしてあった。それがまさかの第一声。

男前な声、爽やかさえ感じる。声力だろうか。あっさりと、デートの約束を取り付ける。会社員で、その日は休日らしく、三多摩にあるレジャー施設へのお誘いを受けたという。待ち合わせ場所を決め、すぐに合流するかと見えたが、彼は動こうとしない。いわく、声の感じが好ましくなく、しつこく付きまとう、踏めば危険な“地雷女”であることを察知したという。

かの女性の依頼をスルーして、再び、電話を待つ。そうすると、待つまもなく電話が繋がり、速攻でアポを取り付ける。早業である。聞けば、テレクラから車で10分ほどのところらしく、迎えに来てくれれば出ていくという。あっさりというか、あっけなく、次の獲物(!?)がかかる。20代の主婦で、暇を持て余し、テレクラに電話をしたそうだ。

彼は外車のRVで、約束の場所を目指すことになる。私は、仕事仲間のフリーライターの車で、彼の車を尾行(!?)する。探偵か、刑事か??。

車で10分ほど、山の中(というか、高台)を入っていき、瀟洒な一軒家の前に車を横付けし、クラクションを鳴らすと、その女性が出てきた。奥様というより、ヤンママ風である。驚くべきは、何のためらいもなく、すぐ車に乗り込んだこと。家の前で話し込んだりすることもなく、そのまま助手席に座ると、あっという間に車は出てしまう。追いかける間もない。

後年(といっても数年後だが)、テレクラが犯罪の温床となり、テレクラ絡みの事件や事故が相次ぐが、人を疑うことをしない、そんな不用心さが原因だろう。その時は、まだ、性善説が信じられる時代だったのかもしれない。

私達と言えば、あまりの速攻ぶりに茫然自失。かなわないと感じてしまう。しかし、そこで怯むわけにはいかない。テレクラに戻りがてら、ファミレスで昼食を取り、再度、テレクラでアポ取りに挑む。まだ、時間はある。人妻の猶予時間はたんまりとある。

仕事の仲間にアポが取れる。30代の主婦で、同じように暇をしているらしい。このテレクラには何度か、電話しているが、話だけで会ったことはないという。多分、嘘だろう。彼の誘いに、躊躇うこともなく乗ってきた。駅の側で待ち合わせる。

私も人妻調達人の時のように、彼のあとを追いかけ、どんな女性が来るのか、遠目で見張る。すると、約束の時間から5分ほど遅れ、女性がやって来た。少し小太りのとても地味な女性である。ある種のふくよかさがいいお母さん臭を醸す。こんな女性がこんなことをするのだろうか、という感じだ。仕事仲間はその女性を喫茶店やレストランなどで話し込むこともなく、駅から数分のラブホテルへ連れ込むことに成功する。こんなにあっけなくていいのか、という感じである。

毒気に当てられ、次は私もと、テレクラで意気込むと、かえってうまくはいかないもの。電話は多いものの、話が弾まず、アポに至らない。流石、平日の昼間、人妻は多いが、不倫願望より、亭主への毒を吐きたい願望が勝り、愚痴の聞き役になる。おそらく、そこから女性にうまく私への興味を引き出せれば、会える可能性はあったかもしれないが、いい人を気取りたいのが仇となり、家庭や育児などの愚痴を延々と聞くことになる。

ただ、人妻達が大きな不満や不平を抱え、どこかで、そのストレスを発散したいという願望を抱えていることは改めてわかる。地域によるが、ある程度、裕福な家庭環境にあるものはパートなども不要らしく、子供の送迎や家事を終えると、とてつもなく暇になるようだ。そんな暇つぶしに付き合いつつ、羽目を外したい、いけないことをしたいという彼女達の欲望を突けばいい。

と、理屈ではわかっていたが、目立った釣果を上げることなく、仕事仲間が帰ってくるのを待つしかなかった。夕方前に彼はテレクラへ戻ってきた。聞けば、おとなしそうな顔とは裏腹にセックスは貪るようだったという。まるで、男性週刊誌が書きそうな惹句だが、戦果を誇らしげに語る。

その彼に30分ほど遅れて、人妻調達人が帰ってくる。彼は女性をピックアップし、そのまま郊外のラブホテルへしけこんだという。あっけないものだ。おもちゃなども使った変態プレイも大丈夫だったらしく、車に忍ばせた七つ道具(笑)が大いに役に立ったという。

彼は「週刊誌は人妻の不倫や乱倫をやたらと書きたてるが、それは特別なことではなく、本当はもっとたくさんの人妻が遊びまくっている。むしろ、週刊誌の報道はほんの一部でしかない」と、豪語する。おそらく、それは現実を知るものだからこそ、言えることだろう。まだ、“婚外恋愛”などという口当たりのいい言葉はなかったが、人妻は平日の昼間、夫の知らないところで、動き始めていたのだ。

暫くすると、彼あてにテレクラへ連絡がくる。この日、最初にアポを取った女性である。彼女にはテレクラのボックスナンバーと名前(当然、いい加減な名前)を言っていた。彼からすっぽかされたにも拘らず、レジャー施設にいるらしく、待っているという。人妻調達人は「ごめん、ごめん、急に仕事が入って、行けなくなって、いま戻ってきたところ」と悪びれることなく、返答する。さらに「まだ、仕事が終わんないで、今度ねー」と言って、電話を切ってしまう。

彼の予感は的中したみたいだ。あからさまな嘘にも関わらず、その言葉を鵜呑みにする頭の悪さとともに執着みたいなものある。こんな女性に関わったら、大変なことになるだろう。地雷は踏まない方がいい。

人妻調達人は声を聴いた段階で、すぐに分かったという。おそるべき、判断力と瞬発力。危険察知能力の高さだ。耳と脳が繋がり、瞬時に判断を下す。同時に脳が口に繋がり、その場を切り抜ける相応しい言葉を紡いでいく。それゆえ、釣るものは釣り上げ、リリースするものはリリースする。見事しかいいようがないのだ。

この日が契機となり、人妻調達人の薫陶を受けることになるが、彼と、その仲間達のすごさを知るには、そう時間はかからなかった。奇想天外・大胆不敵・手練手管のナンパの鉄人達との邂逅はもうすぐだった。