2004-01-22

第13回 直納

●「直納」とは何か?

「直納」とは、出版社が書店に商品を直接納品すること、を意味しています。宅急便などを利用する場合もありますが(そういった場合は「直送(直接送品の略)」と呼ぶこともあります)、「直納」と言うと書店営業が商品を直接書店まで持って行くイメージが強いようです。また、「直納」と「直取引(直、直扱い、直取)」の違いですが、「直納」の場合、伝票は取次経由となります。「直取引」は取次を介さず、書店と出版社で直接取引を行ないます。モノの流れは似ていますがお金の流れが全く違います。

●「直納」の手順

書店に商品を直納する際に添付する伝票は「仮伝(仮伝票、仮納品伝票、直納伝票)」と呼ばれます。大型店の場合は、売場ではなく仕入に商品を持っていく場合もありますが、基本的には売場の担当者のところまで持参するようにしています。仮伝の書店側控は書店に渡し、出版社側控は書店に番線印を押してもらい、持ち帰ります。宅配便などで商品を送る場合は「仮伝」と返信用封筒(「仮伝」の控を送り返してもらうため)を商品と同梱し、書店に送ります。書店から「仮伝」の控が戻って来ないこともたまにありますのでそういう際は督促します。

●「伝票切替」

「仮伝」控を会社に持ち帰ったら(もしくは書店から送られてきたら)「本伝(本伝票、納品伝票)」を起票します。「本伝」は通常取次に渡している納品伝票と全く同じものです。その後、「仮伝」と「本伝」を取次に持参し、「伝票切替」を行います。ここまで終わってはじめて「仮伝」が「本伝」に切り替わり、取次に対しての請求が発生します。なお、集品に来ていただいている場合はその場で切り替えを行なうことも可能なので、取次に行かないで済むこともあります。また、伝票切替はその都度行うのではなく、請求締日に合わせて行なっています。トーハン・日販の場合は締日(25日)当日は午前中までの受付のため、弊社では安全のために前日までに切替を済ませるようにしています。

●なぜ「直納」するのか?

「直納」は出版社の書店営業にとって非常に重要な業務の一つであると思っています。いつもお付き合いのある書店に商品を持参した場合は「また頼む」と言われるかもしれませんし、普段お付き合いのないお店に直納した場合は営業の顔と名前を覚えてもらえるかもしれません。また、取次経由では時間がかかってしまうような場合や本当にモノが並ぶかどうかが不安な場合、「直納」することによって並べてもらうところまで確認できるというメリットもあります。書店との信頼関係を築き上げるという観点から考えると、小さい出版社こそ「直納」という営業手法を活用すべきだと思っています。

●どんな時に「直納」するのか

全ての注文に対して「直納」で対応することは出来ませんし、もしそうしたところであまり意味はないと思っています。取次を活用できる場合はそうしたほうが基本的には安上がりです。特に取次の倉庫に在庫を持ってもらった場合、取次経由で出荷してもらった方が良い場合もあります。そうした中でも、顔見知りの書店さんから「急ぎで」と言われた時は営業が書店に行く際についでに商品を「直納」することがかなりあります。残念ながら地方の書店さんからの要求にはなかなかお答えできないのが現状です。

●宅配便での「直納(直送)」 客注分の事故対応の場合

流通の過程でトラブルが発生したりした場合、納品が極端に遅れたり、場合によっては商品が行方不明になってしまうこともあります。補充注文の場合は「もう一度注文しなおしていたいたうえでダブってしまった場合は返品してください」という対応をしますが、客注の場合はお店の側も切羽詰っていることが多いようです。弊社では電話で頂いた客注分などについては記録が残っていますので、事故が明白な際には宅配便などで「直送」する場合もあります。

●宅配便での「直納(直送)」 大型店の場合

さほど緊急性が高くないと思われる棚の補充注文についても「取次経由だといつ着くかわからないから宅配便で送って欲しい」と言われることがあります。商品を早めに補充したい、という意味では悪いことではないと思いますが、大型店の場合は注意が必要です。大型店の場合、宅配便で送った荷物は通常の取次経由の荷物より処理が後回しにされる場合があります。仕入部門で滞留してしまい、担当者の手元まで届くのに予想以上に時間がかかってしまう場合もあります。つまり、担当者に手渡しするのに比べるとはるかに不安な要素が多くなります。ですので、大型店の棚の補充についてはなるべく取次経由でお願いするようにしていますが、それももちろん時と場合によります。

●宅配便の送料

宅配便で「直送」する場合の送料は原則的に弊社が負担します。地方の書店さんから「送料はウチが持つからすぐに送ってくれ」と言われることもありますが、しかもお店とお客さんのとの間でトラブル寸前になっているのが電話からでも伝わってくるような場合はお店に送料を負担してくれとは言えません。急ぎの採用品なども「送料持つから」と言われることがありますが、その場合は送料を頂く場合もあります。それ以前の問題として採用の場合はなるべく取次経由のほうが送料が安上がりなのでなるべくそうしてもらいたいと思っています。

●もう一度、なぜ「直納」するのか?

出版社の書店営業の中で、書店さんから非常に慕われたり大事にされたりしている方がいます。例えばベレ出版の内田社長のような方です。そういった営業の方々のエピソードの中には「直納の思い出」という話が必ず出てきます。「思いがけず売り切れてしまった時にタイミングよく直納してもらって本当に助かった」であったり「でも、その後急に売れ行きが止まってしまい、直納してもらった分は丸々売れ残ってしまった」であったり。「直納」は書店と営業との共同作業的な要素を多く持っています。だからこそ、うまくいった時もうまくいかなかった時も印象に残るのだと思います。
大手の出版社の営業は書店に直納することはあまりないと思います。厳密にコストや手間のことなど考えると「直納」はあまり効率的とは言えません。だからと言って小さい出版社が大手と同じような営業を出来るわけではありません。小さい出版社だからこそ大手と違うことをやる。その意味で「直納」は非常に有意義だと考えています。