2003-12-02

第10回 品切になったら


今回は11月12日付けで版元ドットコムの「版元日誌」として掲載された原稿に加筆修正したものです。

◎Link→版元ドットコム 版元日誌「死亡届」

●「品切」とはどういう状態か

「品切」、とはつまり、出荷すべき商品がなくなってしまっている状態、ですが、出版業界で言うところの「品切」には、かなり色々種類があります。大きく分けると、一時的なもの、と、永続的なもの、に分かれるようです。一時的、と言っても、その「一時」がどれぐらいの期間なのか、当事者(出版社)でなければ判断がつかないこともあります。そういった曖昧さを避けるため、弊社では通常「品切重版未定」、つまり在庫がなくなってしまった上に増刷(再生産)の予定は全くない、という状態のことを「品切」と呼んでいます。

 

●「品切」になる商品

増刷の予定のない商品とは、要はあまり売行きが良くなく、かつ、増刷すると原価が高くついてしまい割が合わない、という商品です。最近は少部数印刷やオンデマンド印刷の話を聞きますが、現時点ではまだある程度のロットを刷って在庫を持ったほうが効率は良いのではと思います。
増刷の予定がなくなっただけでは品切にはなりません。さらに在庫がなくならないといけないわけですが、これはもちろん「断裁」を含んでいます。せっかく作った商品はなるべく最後の一冊まで売り切ってしまいたいとは思いますが、過剰な在庫を抱えるようであれば「断裁」という選択肢を選ばざるを得ない場合もあります。

 

●本の誕生と死亡にまつわる作業

書籍は新刊として出される時、製作的なことだけでなく、販売促進・広報宣伝・流通など、ありとあらゆる点において非常に多くの手間がかけられています。発売後に伸びだすベストセラーのような本ではない通常の書籍の場合、新刊時の売上が最大になることが多いわけなので、当然と言えば当然かと思います。が、新刊時にかける手間を「出生」的なものであると考えると「品切」に関する作業は「死亡」のようなものであると考えられます。弊社も含めて多くの出版社は本が生まれた時の作業は熱心ですが、本が死んだ時の作業が充分であるとは言えないように思います。

 

●本の死亡届

新刊の時に色々やるのは当たり前ですが、「品切」になった時に色々やるのはなぜかと言うと、それをやることにメリットが多々あるからです。新刊の際は告知しなければ認識されないというのは判り易いのですが、「品切」の際にもキチンと告知しなければ誰にも認識されません。告知をしなければ「品切」商品が、まるで幽霊のように、どこかに情報としてだけ存在することになってしまいます。存在しない商品のために問い合わせの電話やFAXが使われ、「品切」と言うことを伝えるためだけにやりとりをしなければいけないのです。
現実的に今、客注の取り扱いを嫌がる書店さんがあります。モノが存在するのかしないのかすらわからない状態ではお客さんからの注文を受けたくなくなる気持ちもわかります。が、その状態を放置していてもお互いにメリットはありません。その状態を少しでも改善するために出来ることのひとつとして「品切」に付随する作業がある考えています。以下が弊社での具体的な作業手順です。

●具体的な作業内容について

実際には品切に付随する作業は一度に行うのではなく、もうすぐ品切になりそう(在庫僅少)な段階と、実際に品切れになった段階とに分けて、時間をかけてじわじわと進められます(その理由は後ほど触れます)。下記のような手順です。

●手順1
出版案内

新刊や増刷の際に挟み込んでいる「出版案内」から書名を除きます。「出版案内」は新刊時や増刷時に挟み込むため、売れない本だとすぐに古くなってしまいます。あまりに古い情報になってしまうのを避けるため、品切になりそうな商品は早めにそこから除くようにしています。

●手順2
一覧注文書

次に、営業の使っている一覧注文書に在庫僅少の印をつけます。これは、営業が自分の判断で受注を調整するためです。お店や状況によってモノを出したり出さなかったりという状態をしばらく続けます。

と、上記の手順までが完全に品切になる前、つまり「在庫僅少」状態での作業です。この状態では基本的に「客注」には対応しています。

次からの作業は完全に品切になった状態で一気に行います。


一覧注文書作例

●手順3
Webのカタログページでの告知

Webページに掲載した商品の注文ボタンを外して注文できなくしてしまい、表紙画像には「品切」という文字を乗せます。文字で「品切」であったり「注文不可」と書くだけでなくボタンを外したり画像を変えたりするのは、「そのほうが分かりやすいから」です。ボタンがなければ注文できないですし、表紙の画像に「品切」と書いてあれば早とちりすることもないはずです。


初めて学ぶ広東語

▼Link
『初めて学ぶ韓国語II』(語研での表示)

●手順4
Webの一覧ページでの告知

Webページの品切一覧に加えます。また、全点一覧では「品切」と明記します。お客さんが確実に商品のカタログページにたどり着けるとは限らないので、複数の画面で告知するようにしています。

▼Link
品切一覧
全点一覧

●手順5
外部データベースへの告知・登録

弊社は「版元ドットコム」という「版元による書誌データベース」に参加しています。この「版元ドットコム」のデータベースに登録してある書誌情報のデータ区分を「2=絶版(実際は絶版ではないんですがそれ以外に対応する区分がないためそうしています)」に、在庫ステータスを「33=品切れ・重版未定」に変更し、取次他(書協・トーハン・日販・大阪屋・bk1)に送信します。

▼Link
『初めて学ぶ韓国語II』(版元ドットコムでの表示)
『初めて学ぶ韓国語II』(アマゾンでの表示)

※「データ区分」は書協に転送する際に必要な属性です。詳細はhttp://www.jbpa.or.jp/db_mn/mn1.htmをご覧下さい。
※「在庫ステータス」は、事実上の業界標準である出版VANでの在庫ステータスを使用しています。
これの詳細はネットでは公開されていないようですが、後述する新出版ネットワークに関する情報が参考になるかと思いますのでご参照ください。

以上のような手順で一通り作業は終了です。ちなみに5の手順を経ることによってamazon.co.jpを始め、ほとんどのオンライン書店にも品切情報は行き渡ります。また、取次の書誌情報やPOS端末を使っている書店にも情報が行き届いたことになります。これがやりたいんで版元ドットコムに参加したんですが、思っていた以上に便利で重宝しています。

●作業に時間をかける理由

さて、1・2の手順と3・4・5の手順の間に時間を置く理由ですが、5の手順はいわば本の「死亡届」を提出しているのと等しい行為です。5の手順を経てしまうと、途端に全く注文が来なくなってしまいますが、悲しいことに返品だけはダラダラと返り続けてきます。つまり、5の手順を行う前に市中(店頭)在庫をなるべく枯らしておかないといけないのです。そのため、徐々に受注を絞り、最終的に「品切」とした以降にはなるべく返品が返ってこないように仕向けているわけです。

●新出版ネットワーク

本来こういった在庫(品切)情報は出版VANといった業界のネットワークを経由して行なわれています。ですが、従来の出版VAN導入にはある程度の初期投資が必要であったため、弊社では参加していませんでした。が、ここへ来て初期投資の不要な形態、つまりインターネット経由でのWebEDI(いわゆる新出版ネットワーク)が現実のものとなったため、弊社でも12月から導入の予定です。また、WebEDIではない方法についても導入コストは格段に安くなっています。そちらについても来春に導入を検討しています。

▼Link
新出版ネットワークについて

●具体的なメリット1
問い合わせの激減

弊社ではWebで品切一覧を掲載するようになって、読者からも書店からも、お問い合わせの電話やFAXが激減しました。小さい会社なので電話が減るととても助かりますし、FAXの場合も紙代・返信コスト等考えると馬鹿にできない気がします。弊社で電話が減っているということは書店さんから見ると品切を確認するためだけに版元に電話するお金と時間が減っているわけです。小さいことかもしれませんが品切情報を公開することによって書店さんの手間軽減にも少しは貢献できているのかもしれません。

●具体的なメリット2
関連商品への誘導
これはまだ完全に実現できているわけではありませんが、品切の商品と関連した商品、もしくは類似の商品への誘導ができそうです。本という商品は文化的なものであり代替不能なものだ、という点から言うと「何を言っているんだ」ということになりますが、実は代替可能な場合が多数あります。一つは判型などが変わって別商品として扱われている場合(文庫など)、もう一つはいわゆる「名作」として多数の出版社から刊行されている場合、さらにもう一つは実用書などでどれをとっても大差ない(と思われる)場合。最初の場合と最後の場合、自社でそれを行っているのなら現在の入手可能な商品に誘導することは大きな意味があるように思います。単行本は品切だが文庫なら入手可能であったり、同じ著書を改題して刊行していたり、年度版で最新のものが入手可能であったり。これらの状況は意外と多いものです。品切情報でアクセスしてきたお客さんをそちらにうまく誘導できれば、品切情報そのものが売上を生み出す可能性もあるのではないかと考えています。