2008-01-25

過熱する米国大統領選挙の舞台裏(共和党編・1) 有力候補、ジョン=マケイン上院議員の素顔

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オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:過熱する米国大統領選挙の舞台裏(共和党編・1)
副題:有力候補、ジョン=マケイン上院議員の素顔

【本文】
 アメリカ大統領選挙の予備選挙が1月3日のアイオワ州党員大会を初めに、幕が開き、激戦がスタートした。共和党は本命候補が不在で、誰が勝利するか分からない混戦状態だ。

 共和党の選挙戦はルドルフ=ジュリアーニ・前ニューヨーク市長が2007年2月15日にCNNテレビ(CNN)の報道番組で出馬を表明し、同年2月28日にジョン=マケイン上院議員が出馬表明した。国民的人気の高い共和党カリスマの両氏が選挙戦を始めたことにより、共和党の候補者選びは幕を切ってスタートした。

ベトナム戦争の英雄・マケイン上院議員

 当初から有力視されているマケイン氏はベトナム戦争の英雄として知られる。マケイン氏はベトナム戦争従軍中の1967年、北ベトナム上空を飛行中に撃墜され、5年以上を捕虜収容所で過ごした。うち2年間は悪名高い捕虜施設「ハノイ=ヒルトン」の独房で過ごした経験を持つ。捕虜の米兵を北ベトナムが解放するという時、マケイン氏は自分ではなくほかの米兵を解放するように要求した。この逸話は氏の正義感を表している。捕虜時代に受けた拷問による負傷で腕を上げることができず、髪の毛をとかすこともままならないというマケイン氏は、厳しい戦争体験を乗り越えて確立された揺るぎない信念で独自路線を貫く。同じくベトナム戦争帰還兵で、2004年大統領選挙の民主党候補だったジョン=ケリー上院議員とは党派は違えども古くからの親友だ。ケリー氏と共に幾度となくベトナムに戻っては行方不明兵や戦争捕虜の捜索にあたった。そして、米国とベトナムの国交正常化のために先頭に立ち、1995年7月、ビル=クリントン政権下で国交は回復する。マサチューセッツ州選出でジョン=F=ケネディ元大統領の兄であるエドワード=ケネディ上院議員(民主党)は「両国の関係正常化はケリーとマケイン両上院議員の努力の成果だ」と2人の努力を褒めたたえた。

 マケイン氏は2000年大統領選挙の共和党予備選に出馬した。対抗馬は組織・資金・知名度で圧倒的優位に立ち、本命視されていたジョージ=ブッシュ現大統領だった。ブッシュ氏に早々とけ散らされ、早くに選挙戦から撤退することになると誰しもが予想した。しかし、序盤戦ではブッシュ氏が全力を傾注したニューハンプシャー州の予備選挙でマケイン氏が大差で勝利し、ブッシュ陣営を驚愕(きょうがく)させた。そして、アリゾナ州やミシガン州でもマケイン氏が立て続けに勝利し、マケイン氏の健闘を米メディアは「マケイン旋風」と名付けた。最終的にはブッシュ氏に破れた同氏だが、予想外の接戦に持ち込んだことで、人気の高さを証明した。

穏健派の顔を持つが、徹底した介入主義者

 地球温暖化問題に米国が積極的に取り組むべきと主張し、自身の捕虜体験から「テロとの戦争」容疑者に対する拷問には強く反対し、不法移民の合法化を提案するなど共和党議員としては穏健な一面を持つ。ただ、筋金入りの人権主義者で、徹底した介入主義者としても知られる。1999年のコソボ紛争の際には当時のユーゴスラビアを支配していたソロボダン=ミロシェビッチ大統領(当時)の独裁体制を激しく非難し、NATO軍による空爆だけでは不十分で、地上軍も派遣すべきだと主張した。独裁化しつつあるロシアのウラジーミル=プーチン政権にも批判的で、「ロシアにG8の一員である資格はない」というのが持論だ。中東政策では、サダム=フセイン独裁政権打倒のためにイラク戦争を全面的に支持し、中東全域の民主化はサウジアラビアの絶対王政を転覆させて初めて成立すると考えている。また、イランの核武装阻止のために限定的空爆をすべきだという。イラク戦争後はかねて米軍の増兵を説き、「少数精鋭・ハイテク兵器至上主義戦争論」のドナルド=ラムズフェルド国防長官(当時)を「米国史上・最低最悪の国防長官だ」と断罪した。

 ただ、イラクの治安悪化から、筋金入りの増兵派であるマケイン氏の人気は急落し、2007年8月13日~16日にギャラップ社が行った全米の世論調査では、人気が第4位にまで落ち、支持率は首位となったジュリアーニ氏が獲得した31%の約3分の1にあたる11%だった。人気低落のため政治献金が集まらず、財政難から約150人いた選挙スタッフの50人以上を解雇せざるをえなかった。

マケイン氏の奇跡的な「生還」、このまま、大統領候補になるか?

 選挙戦から脱落したかに見えたマケイン氏だが、2007年8月以降、イラクでの米軍増兵によって、バクダッドの治安が回復するなど、一定の成果が見られたため、支持率は上がり、予備選が始まると、1月8日のニューハンプシャー州と翌週15日のミシガン州、19日のサウスカロライナ州の予備選で勝利し、最新の世論調査では共和党候補の中で支持率が全米でトップに立ったというものもあり、再び「マケイン旋風」が巻き起こった。このままの勢いが続けば、マケイン氏が共和党の大統領候補になる可能性が高い。

 ただ、マケイン氏には1つだけ、弱点がある。それは年齢だ。今年72歳になるマケイン氏が大統領になった場合、米国史上、最高齢での就任になる。仮に2期務めた場合、任期を終える時には80歳となる。民主党の有力候補・ヒラリー=クリントン上院議員は60歳、バラック=オバマ氏は46歳と、マケイン氏より一回りも二回りも若い。

 同氏が共和党候補に選ばれた場合、高齢というマイナス点をどう克服するかが、当面の問題となろう。