2010-04-23

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー●「丸尾末広に聞くマゾヒズムの世界」 レポート

2010年4月22日(木)、下北沢ヴィレッジヴァンガードにて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー「丸尾末広に聞くマゾヒズムの世界」を開催しました。
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ヴィレッジヴァンガードに来てくれたお客さんは55名。店内の什器を移動し、イベント用スペースを作ってもらいました。
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ちなみに配布した整理券は108枚(電話での事前予約含む)。約半数の55名でもけっこう満員だったので、残念なような、ホッとしたような……。
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丸尾末広さん。

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聞き手を務めてくれた吉田アミさん。

来場してくれたお客さん、ご出演いただいたお二人、そしてイベントを担当してくれたヴィレッジヴァンガードの担当・守谷さん、本当にありがとうございました。

以下、トークショーの模様です。

吉田「今回復刻された『劇画家畜人ヤプー』の解説を引き受けた経緯はどういうものなんでしょうか?」

丸尾「まあ、僕も沼正三のファンの一人ですから、断る理由はなかったですね。僕は沼正三さんに自分の本を送ったこともあったし。返事は来なかったですけど。」

吉田「『DDT』に書かれてましたよね。沼さんには『夢のQ-SAKU』を送ったんですか?」

丸尾「そうです。天野哲夫さんのもとに行ったと思います。ただ、天野さんは「私が沼だ」と言ったけど、私はどうも信用できない。あの人一人じゃなくて、他にも一人二人いたと思う。中心は裁判官の倉田卓次だと思っています。堅い仕事の人だからあまり正体を明かせなかったんだと思う」

吉田「丸尾さんが今回の解説で、「天野哲夫はリードボーカル」と言っていましたけど、それは上手いたとえだと思いました」

丸尾「『家畜人ヤプー』は天野さん一人ではないと思いますよ。澁澤龍彦もそう書いてましたね。倉田さんは本当に博識で、法律はもちろん、日本の古典、映画、ドイツ語フランス語英語も出来る。そういう人ならヤプーも書けるでしょう。あと、三島由紀夫が匿名でけっこうアイデアを提供していたふしがありますね。だから三島もバンドのメンバーの一人に加えても良いと思います。三島が一番最初に『家畜人ヤプー』を見出したということにもなってますし」

吉田「家畜人ヤプーは『奇譚クラブ』という雑誌で連載してたんですよね?」

丸尾「『奇譚クラブ』は大阪にあった雑誌で、須磨利之という人が絵も文章もいろんなペンネームを使い分けて一人で全部やっていた。その須磨利之が舞台を作って、沼正三が投稿してきた、ということです。沼正三はプロの作家ではなく、素人ですから」

吉田「そして都市出版社から『家畜人ヤプー』の小説が出た。初めてヤプーを読んだときはどうでしたか?」

丸尾「こういう人がいたのかと驚きました。マゾヒズムの一筋で他の要素がないですから。私が18歳くらいの頃だったと思います。今回の『劇画家畜人ヤプー』に関して言うと、三島由紀夫がなくなる少し前に、寺山修司との対談で、ヤプーには気取った絵は合わなくて、少年雑誌のリアリティが必要だと話していました。石ノ森章太郎さんが書いたのは、その三島の一言がきっかけだったのではないかと思います。でも、当時少年雑誌のグラビアには漫画ではない、リアルな画風のものがあって、三島はそれをさしていたと思います。石原豪人とかですね。その人たちがヤプーを書いていたら、また違ったんじゃないかと思う」

吉田「でも、石ノ森さんが書いたことでヤプーがメジャーになりましたよね」

丸尾「当時、子供は読まなかったかもしれないけど、中学生くらいだったら読んでたじゃないでしょうか。ポルノだけどセックスシーンは出てないし」

吉田「ホラーとか怪奇趣味の要素もありますよね。石ノ森さんの絵はとっつきやすいし」

丸尾「あの時代(『劇画家畜人ヤプー』初版発行は1971年)、まだ大人向けの漫画が定着してなかった時代ですよ。そんな時代に描いたんだから、石ノ森さんは先取り精神がありますよね。ただ、『仮面ライダー』と同じ作者だとは思えないですよね(笑)」

吉田「あと、売れていた、というのがすごいですよね。今売られているのは2,200円ですけど、当時はもっと手に取りやすかったわけですから」

丸尾「でも、当時子供向けのものは漫画は400円くらいだったけど、『劇画家畜人ヤプー』は800円くらいしたと思います。サイズも大きいから、ちょっと特別だったかもしれません」

吉田「丸尾さんは解説で、石ノ森さんが多忙な中書かれたことにねぎらいの言葉を書いていますが」

丸尾「忙しい間をぬって、描きたくて描いたんだから。よっぽど描きたかったんじゃないでしょうか。やっぱり、絵にするのは難しかったと思いますよ。締め切りもあるし(笑)。でも、日本が滅びた場面など、文章で説明してしまうのではなく、もう少し画にしてほしかったですね」

吉田「原作についていた挿絵に引きずられている部分もありますよね」

丸尾「そうですね。あと、女性が非常に大きく描かれているんですよね。石ノ森さんは十頭身くらいの背の高い人が好きなんでしょう」

吉田「石ノ森さんの後に、江川達也さんも描いていますよね。二人の方が漫画化するというのはめずらしいですよね」

丸尾「僕のところにも依頼が来たけど、描き下ろしだったので断わっちゃった。部分的には描きたいと思うけど、丸ごとやるとなると、3年くらいかかるかもしれないし、自分がまいっちゃうかな。江戸川乱歩の『芋虫』だって、一年かかっちゃいましたから」

吉田「でも、みんな見たいだろうなーと思います。丸尾さん自身も原作のあるものを漫画化していますけど、原作を漫画にする際に気をつけていることはありますか?」

丸尾「気をつけているというか、小説では1行で書いてあるところを、漫画にすると3ページになったりするのがしんどいです(笑)。30ページくらいだと考えていたのが70ページになっちゃったり、ページ配分が狂ってきちゃう。その違いでまごつくわけです。何でもない場面にやたらページがかかったり」

吉田「『パノラマ島奇譚』はご自分から漫画化を提案したんですか?」

丸尾「あれはずっと狙ってました(笑)。最初は200ページ以内でまとまると思っていたんですけど、実際には280ページまでいってしまった。それでももうちょっと欲しいくらいです。描いているうちに、どんどんふくらませたくなっちゃうし」

吉田「原作を読んでいるときに、映像が浮かんでいるんですか?」

丸尾「そうです。でも、漫画は手作業ですから。石ノ森さんにしても、宇宙船の内部の描き方とか、大変だったと思いますよ」

吉田「丸尾さんはアシスタントはいらっしゃるんですか?」

丸尾「全部一人でやってます。気が遠くなりますよ(笑)。自分が30ページ書くあいだに、同業者は本を一冊出してますよ」

吉田「言葉を映像化するときにイマジネーションを刺激されるものが、原作として魅力的ですか?」

丸尾「そうですね。イメージが浮かぶものと浮かばないものがある。乱歩は浮かびますね」

吉田「会場から質問とか聞いてみますか?」

会場「ヤプーは関係ないんですけど、丸尾先生が好きな映画を知りたいです」

丸尾「いろいろ好きですけど、『ブリキの太鼓』が好きですね。あと、『2001年宇宙の旅』」

会場「影響を受けたものはありますか?」

丸尾「中川信夫の『東海道四谷怪談』です。影響を受けたというか、こういうものを一本形にできたら、その仕事をやっていてよかったと思えるんだろうな、と。自分もそういうものを形にしたいと思います」

吉田「漫画より、映画のほうが好きなんでしょうか」

丸尾「そうですね。3Dのものは一通り見てますよ。ティム・バートンの『不思議の国のアリス』も見てますし。ティム・バートンは一度会いましたけど、あの人は面白いと思いますよ。あとはデヴィット・リンチとか。リンチにヤプーを見せたら、どう反応するか知りたいですね。

吉田「最近の漫画はどうですか?」

丸尾「人の漫画はあんまり見ないんですよね。最近、朝日新聞から手塚治虫賞の推薦作を出してくれと言われて、あんまり読んでないのに、と困っちゃったから、自分が好きな人を推薦したんだけど」

吉田「ちなみに誰ですか?」

丸尾「荒木飛呂彦です。『スティール・ボール・ラン』を推薦しました。あの人は賞にふさわしい実力だと思います。あと、楳図かずおさんは子供の頃から好きです」

吉田「最初の漫画体験って、覚えていますか?」

丸尾「『少年画報』を読んでいました。大友克洋も同世代なので、同じようなものを見ていたと思います」

吉田「17歳のときに、初めて自分の漫画を編集部に持ち込んだんですよね」

丸尾「『ジャンプ』編集部に持ち込みました。そのときに見てくれた編集者と、この前偶然スペインのマンガフェスティバルで会いましたよ(笑)。向こうは覚えてなかったけど、全然変わってなかった」

吉田「どういうマンガを持ち込んだんですか?」

丸尾「中途半端な怪奇マンガでしたけど、そういうものはジャンプはお呼びでなかったですね。それで少年漫画は自分には向いていないな、と」

吉田「描いて気持ちいいということはあるんでしょうか? 特に丸尾さんのは、線の気持ちよさがあるじゃないですか」

丸尾「どうでしょうか。自分は緊張して描いていますから。下書きはきっちり描いて、その上をきちんとなぞりますね。他の人とは違ったやり方かもしれません」

吉田「ほとんど独学でやられたんですよね?」

丸尾「そうです。確か中学の頃に、石ノ森さんの『マンガ家入門』を買って読んだ気がします」

吉田「あれはでも、マンガの描き方というより、漫画家のなり方でしたよね」

丸尾「あれは抽象的で、高尚といえば高尚ですけど。今はわかりやすいのが出てますよね。当時はスクリーントーンもなくて手描きでやってたし。だから、トーンを買ったときも貼り方は分かるけど、ぼかし方がわからなかった。削ればいいんだけどね」

吉田「今はデジタルでトーンなんか関係ない人もいますけどね」

丸尾「そうですね。地方で描いて、編集部にデジタルで入稿したり」

吉田「私は中学生の頃に初めて『ガロ』で丸尾さんのマンガを読みました。修学旅行のときに抜け出して、原宿のラフォーレで丸尾さんの単行本を買ったのが武勇伝、みたいな(笑)。丸尾さんの漫画のファンには、女子が多いですね。フリークスでグロテスクなんですけど、絵が美しくて入りやすい。一コマ一コマじっくり見てました」

丸尾「ただ、80年代は今より遥かに急いで描いていましたよ。人物だけ書いて、背景は真っ白だったり」

吉田「単行本にするときに加筆もしていますよね?」

丸尾「けっこうしてますね。『少女椿』なんて全然違いますよ」

吉田「版を重ねるときも修正されてますよね」

丸尾「そうですね」

吉田「私は『少女椿』がドンズバで、美容室に持っていって「この髪型にしてください」って言ったり(笑)。あと、丸尾さんがパロディにしているのを読んで、原作を読んでみたり」

丸尾「よく、本を読まなきゃと思っても、何読んでいいか分からないでしょ。萩尾望都さんが、自分が読んでいる本を気まぐれに背景に書き込んだりするでしょう。それを買いにいく人がいたりして。マンガにはそういう影響力がありますよね」

吉田「今だとインターネットもあって、漫画家さんがどういう人なのかを発信する場もありますけど、当時はそんなのなかったから、描かれたものの中からその人がどういう人なのかを一生懸命読み取ろうとしていました」

丸尾「パロディはやけくそになってた部分もありますけどね。締め切りが近かったり」

吉田「でも、そこにユーモアというか、あまり深刻になりすぎないでギャグが入っているのがいいなあ、と」

吉田「では、最後に丸尾さんが漫画という表現にこだわっている理由を聞かせてもらえますか」

丸尾「一人で出来るでしょ(笑)映画も演劇もお金もかかるし。誰かと一緒にやると、その人が出来ないとイライラする。自分は半分くらいまで書いて、そこからまた考えながら買いて、ということが多いです。楳図かずおさんなんて、けっこう即興的に描いていくんじゃないでしょうか。『わたしは真悟』とか、『おろち』とか、好きですよ」

吉田「私も好きです。親がゾンビマニアだったので、ゾンビに関しては英才教育でした(笑)。『おろち』も親が買ってくれて。丸尾さんの作品に触れる前に、楳図かずおさんなどのホラーマンガを読んでいたので、入りやすかったのかもしれないですね。今後はどういうものを描かれる予定ですか?」

丸尾「夢野久作の『犬神博士』と、西条八十という人の詩に、『トミノの地獄』という、サーカスに売り飛ばされた子供の悲しい話があるんですけど、それをなんとか漫画化できないかと思っています」

■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

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