2004-09-06

年金積立金巡る官僚の策謀〈社会保障基金の第三者機関設立で資金管理するプログラムを〉

 政府与党は、4月1日に衆議院本会議で年金関連法案の審議に入ることを決めた。まさに、小泉政治のウソと詭弁はエイプリルフールにふさわしい。衆議院厚生労働委員会が攻防の舞台となるが、いまだに年金問題の本質をえぐるにはほど遠い議論しか聞こえてこないのは残念だ。
 今や週刊誌に欠かせないのは、「年金」と「ラーメン」と「袋とじ」と言われるほど、
年金不安と不信は渦巻いている。グリーンピアなど壮大な無駄に長い年月、保険料を投下し続けて高額な退職金を手にする年金官僚たちの無責任ぶりと、昨年に6兆円の評価損を出した株式投資の失敗など、怒りの材料には事欠かない。
 というのも、私は国会で年金資金の無駄遣い追及を98年当時から開始した経験を持っているからだ。グリーンピア(大規模保養基地)は、特殊法人・年金福祉事業団(当時)のつくり出した宿泊施設だ。1か所百万坪を超える途方もない広さの人里離れた土地が購入されて、全国で13か所のグリーンピアが展開した。すべて赤字を垂れ流しているが、経営内容は驚くべきものだった。土地・建物の代金はおろか、何年かに一度の修繕費まで保険料でまかなっている。それでも、客が少ないので赤字続き。経営状態が悪くても役員給料や退職金は高額に払い続ける浪費の構造がここにあった。
一時は十兆円の残高があった年金住宅融資も長期不況がゆえのローン破産後、焦げついている債権が続出し、最終的には年金資金を食い潰すことになるはずだ。株式市場ではド素人の年金資金運用基金(年金福祉事業団を承継)が、150兆円に及ぶ年金積立金全体を国内外の株式と債権で運用しようとして、いまだに巨額の資金を流出させている実態も、目を覆うばかりだ。
けれども、年金問題の本質は、「無駄遣いをなくせばいい」ほど単純ではない。怒りの発端として大切な視点ではあるが、すでに小泉政治は「年金改革」を標榜して年金関連施設の廃止と売却や年金住宅融資の中止を決めている。「これからはちゃんとやります」というポーズをとっているのだ。
さて、この国会に小泉内閣が提出している年金関連法案の中で、とんでもない隠し玉が潜んでいることを本紙読者に強く訴えたい。その名も「年金積立金管理運用独立行政法人化法」という名の法律だ。5年前、99年の年金改正で年金福祉事業団は年金福祉運用基金へと衣替えした。当時、1兆7千億円にのぼる株式投資の失敗の責任を問われて、事業団は解散したはずだった。ところが、焼け太りもいいところで、今度は年金資金運用基金と「年金資金運用」を看板にして年金積立金を150兆円全額扱おうという厚かましい組織に変容した。
その結果が、先にふれた6兆円の評価損だったことは先にふれた通りだ。今回の独立行政法人化法案では、グリーピアの清算と住宅融資の債権回収は厚生労働省傘下の独立行政法人・福祉医療機構にやらせて、本体は「年金積立金の運用」に特化するという法律である。この年金積立金を厚生労働官僚の手から奪い返す闘いこそが、この国会攻防の最大の焦点としなくてはならない。
しかし、現状は惨憺たるものだ。マスコミの不勉強と翼賛化によって、「年金積立金」の実態など五里霧中の状態だ。少子高齢化によって受給バランスが崩れるという一般論が広範に「国民の常識」となっているが、「年金積立金とは我々の財産だ」という「労働者の常識」はまるで普及していない。年金積立金とは、長い間、高い保険料を掛け続けた被保険者の保険料であり、将来の貴重な給付の財源(このように独立行政法人化法案でも認めている)だ。
いったい、いくらあるのか。職場で答えられる人が何人いるか、ぜひ今日か明日、実験してほしい。「年金積立金」を聞いたこともない人が相当いるし、「聞いたことは悪が詳しくは知らない」という人が大半だろう。「150兆ぐらいあるんだってな」と答えられる人は、1割いるだろうか。皆、「我々の財産だ」という意識が希薄なのだ。実は、年金積立金がいくらあるのか、正確には誰も分からない。なぜなら、政府の統計自体も3種類の数字があるからだ。「平成13年度」の数字をひろうと社会保険庁は147兆円といい、厚生労働省年金局数理課は193兆円と予測し、財務省は155兆円とはじいている。
こんなデタラメが通るのも、メディアと国会が官僚の手の平で踊り、労働運動や市民運動が動かないためだ。私は、日本の労働運動や市民が「年金一揆」のむしろ旗を掲げて、怒りの行動を示さないことを不思議に思う。
「無駄遣いはやめます」というデタラメな居直りをここで許せば、年金積立金という巨額な国民全体の貯金は、大崩壊へむけて解き放たれる。独立行政法人は、厚生労働大臣の日常的な監督さえ受けずに、ひたすら国債と株式に積立金を投入する。そして、失敗しても厚顔無恥に甘い汁を吸いつづけ、何の責任もとろうとしない。
 グリーピアと年金住宅融資の失敗は隠しようもなく、トカゲの尻尾切りで逃げる。ただ、「これまでの保険料の集積であり、将来の給付の貴重な財源」であるはずの「年金積立金」はごっそり金庫ごと持ち出すというのだ。
 もし、労働運動に再生がありえるとしたら、この年金官僚の策謀を知らしめ、彼らの行く手を阻むこと以外にない。「年金積立金を持ち逃げするな」と年金一揆の旗を掲げて、厚生労働省・年金官僚を排除した社会保障基金の第三者機関を設立して一円の流失もないように資金管理するプログラムを立てる以外にない。
 彼らは『スパウザ小田原』(雇用能力開発機構が500億円で建設するも、小田原市に8億円で売却。ヒルトンホテルがリース使用を開始)のデタラメが、赤提灯のグチのネタにはなっても、労働運動の強い抗議がなかったことに味をしめている。なにせ雇用保険を切り崩しても、人のいいこの国の労働者は許してくれる。年金資金など、いくらあるかどうせわからないだろう———とタカをくくっているのだ。
 年金闘争とは、「国民主権」が存在するのか「官僚支配」を放置するのかの天王山の闘いなのだ。

(初出:『労働情報』[連載●1]年金一揆の旗を掲げて/2004年4月15日)

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