2004-09-08

永田町「未納ドミノ」と年金政局〈参議院で年金改悪法案を廃案へ追いこもう〉

 永田町では今日も、記者会見や辞任表明が相次いでいる。衆議院での年金法案審議のさなかの4月23日、国民年金保険料の支払いを怠っていた3閣僚(麻生太郎総務大臣・中川昭一経済産業大臣・石破防衛庁長官)がその事実を明らかにすると、菅直人民主党代表が「未納三兄弟」と揶揄し責めたてた。この問題で、審議はストップしたまま大詰めを迎え、「未納閣僚」の公表を野党側は強く求めた。
厚生労働委員会では、与野党理事が「閣僚」と「民主党ネクスト・キャビネット」のメンバーの「納付歴」の採決前の同時公表をいったんは約束していたものの、自民党が時間稼ぎをして委員会採決後に公表を引き延ばした。
そして、福田官房長官も含む4閣僚(谷垣禎一財務大臣・竹中平蔵金融経済担当大臣・茂木敏充沖縄・北方担当大臣)が未納だったことが夜になって判明した。さらに、その追及の先頭に立った菅代表自身が厚生大臣当時の10か月間、未納だったことか同時に明らかになり永田町に激震が走る。
 大型連休で未納問題も「鎮静化」するだろうと、与野党とも期待していたに違いない。
この国の政治スキャンダルは少々過熱しても、大型連休をはさむと空気が一変していることが従来はまま多かったからだ。ところが、連休あけの5月7日午前の定例記者会見で、福田官房長官の電撃辞任で流れが変わった。こうしたドタバタ劇の最中に、あいまいな「年金一元化」をめぐる「自民・公明・民主」の三党合意がなされ、あっさり法案は衆議院本会議を通過する環境となってしまった。
 菅氏辞任を求める声に抗しがたく、10日に菅代表辞任。そして、12日には公明党三役を含めた14人に未納時期があったことが判明。菅氏の未納を厳しく批判していたはずの年金の党が自らが自らを叱る「譴責」処分という茶番を演じて失笑を買った。
この間、土井社民党前党首や共産党議員にも未納があったことが明らかになったことで、未納の当事者は全党に及んだ。13日には民主党の調査・発表があり、33人の未納者を公表し5人の常任委員長が辞任した。すでに、未納公表者は百人をはるかに超えて「兄弟」と呼べる人数を超えてしまった。
 ぐちゃぐちゃ、である。ここに至って、すべての政党が調査・公表を行ったのに対して、自民党のみが「納付状況の公表は各議員にまかせ、党としての調査はしない」(小泉総理・安倍幹事長)と言い続けるのは、変だ。発表すると小泉内閣が吹っ飛ぶ状況を予見するのだろうと想像するのは私だけではあるまい。

 ジェットコースターか、ピンボールのような年金政局にもまれて、年金法案の審議の場は参議院に移った。従来であれば、重要法案も衆議院通過後はフエイド・アウトするのが常だったが、今度ばかりはそうはいかない。
 いずれ時間の問題で、未納問題がクラマックスを迎えるのは間違いない。自民党が公表に追いこまれれば一気に2百人を超えて3百人に迫るかもしれない。「与野党ともにけしからん」という怒りの声はマグマのように広がる。参議院選挙の行方も読みとれなくなってきた。
年金積立金の流用や無駄遣い、巨額の年金資金の運用をやめようとしない年金官僚の傲慢さに批判を重ねてきた私は厚生労働省・社会保険庁のにやけた表情が目に浮かぶ。
与野党が互いに「未納」で応酬し、強行採決で参議院を通してしまえば、後は官僚のやりたい放題である。年金積立金の管理・運用の独立行政法人化も、あいもかわらぬ天下り体質も、何らメスが入らないままになる。
 永田町の「未納ドミノ」の漁夫の利を得るのは、年金官僚だという食えない話が、このままでは現実のものとなる。年金積立金の「金庫の鍵」を年金官僚から奪い返し、将来の給付の貴重な財源として保全するチャンスは、まだ残されている。それは、年金未納をめぐり公表を拒んでいる自民党に膿を出させて、この国会では年金関連法案は審議未了・廃案とする道だ。
 未納問題に決着をつけるには、この国会でお手盛りの「議員年金」の抜本改革もまた大きなテーマである。恩給と退職金、そして年金がミックスしたような議員年金の改革には時間がかかるという議員が多いが、すぐにでも結論を出せる方法がある。それは、「併給禁止・即時返上」である。国会議員は、共済年金・厚生年金を受け取り、さらに地方議員年金も受け取り、10年経過すれば国会議員年金の受給権が取得できる。
 国会議員で歳費を受け取りながら、共済年金・厚生年金・地方議員年金を受給している議員がいるのを御存知だろうか。まずは、自らの年金を「一元化」せよ。そして、議員年金を選ぶ者は、その他の年金受給は返上せよ。これなら、1時間あれば制度変更の法案がつくれる。それから、高すぎる議員年金の改革に取り組めばいい。
 年金に対しての関心がかってないほどに高まっている。この数か月の取材と調査をもとにして、私は『年金のウソ——隠される積立金147兆円』(保坂展人著・5月末日ポット出版刊)を緊急出版し、また月刊『現代』7月号で(6月5日発売)でも緊急レポートを執筆する。あわせて、お読み頂ければ幸いである。

さらに未納ブーメラン暴れまわり年金政局に

 5月14日、小泉総理自身にも年金未納問題が発覚した。これまで、国会答弁や記者会見で「きちんと払っていますよ。調べてくれればわかりますよ」と例の断言調で言い切ってきた。ところが、『週刊ポスト』に出るのがわかってあわてて飯島秘書官が記者会見で未納を認めたというわけだ。政治責任を感じませんかという記者の問いに小泉総理は「まったくないね」と答えて居直る始末。同日、発表した平壌再訪問で話題をかっさらい場面転換を狙おうとしている、17日夜になって民主党代表に話し合い選出されようとしていた小沢一郎氏が、小泉総理と同時期(強制加入前の80年〜86年)国民年金に加入していなかったということを明らかにし「政治責任はないとはいえない」と党代表就任を辞退するという会見を行った。結局、民主党代表は岡田克也氏となり、自民・公明・民主の3党合意の当事者でありながら、「年金法案廃案」を強く打ち出せるかどうか最初の10日間でその手腕が問われる状況となった。すさまじい状況である。今回は、本連載の核心部分である年金積立金をめぐる年金官僚の暗躍について、ふれる紙数がなくなってしまった。いまだ激動が収束する気配はない。

(初出:『労働情報』[連載●3]年金一揆の旗を掲げて/2004年6月1日)

このエントリへの反応

  1. [...] 永田町「未納ドミノ」と年金政局〈参議院で年金改悪法案を廃案へ追いこもう〉  永田町では今日も、記者会見や辞任表明が相次いでいる。衆議院での年金法案審議のさなかの4月23日、国民年金保険料の支払いを怠っていた3閣僚(麻生太郎総務大臣・中川昭一経済産業大臣・石破防衛庁長官)がそ… Wed, 08 Sep 2004 23:04:03 +0900 General  on  年金を考える    http://www.pot.co.jp/nenkin/archives/2004/09/08/rj3  -  Original Article [...]