2012-12-19

お部屋2473/風営法改正の問題点 2/横道に逸れました

誤解されないように念のため書いておきますが、署名する人たちの全員が私が書いているようなことを十全に理解する必要は必ずしもない。私は署名してませんけど、署名活動を全否定するつもりもありません。

そもそも署名運動というのは、趣旨に賛同する人を数で見せるという意味と同時に、そこに問題があることを広く知らしめることや、それによってネットワークを作っていく意味合いがあります。Let’sDANCEがなかったら、新聞やテレビがこの問題を取り上げることはなかったでしょう。取り上げるとしても警察発表そのまま。

現在、風営法の厳格化は他業種にも及んでいます。あるいは他業種から始まっています。これについては『踊ってはいけない国、日本』の拙稿参照のこと。

むしろ他業種の方が深刻な部分もあります。そちらはそちらで動きを見せないとただ潰されるだけなのですけど、現に動きはない。動きを起こすべく私もケツを叩いてはみたものの、無理っぽいです。

だから新聞やテレビはそこにある問題を見ることはなく、それどころか、スナックのママがカウンター越しにビールを注いだだけで逮捕される様子をテレビが報道し、実名までを新聞、テレビが晒す。

クラブにしか興味のない人たちも、他業種の深刻さを知るために、BPOの勧告くらいは目を通しておいた方がよいと思います。警察は別容疑で調べたかったようですが、そちらもシロであり、容疑はあくまで風営法違反です。それでも20日間の勾留ですよ。

「無許可スナック」と言っても、ほとんどのスナックは無許可ですから。これがダメということになると、新宿二丁目もゴールデン街も壊滅。今のところ二丁目で摘発された店は同席したことによるもののようですけど、2号営業の定義では性別は関係がなく、男が女に、男が男に、女が女に接待することも要件内ですから(性風俗や売防法はまた別)、ゲイバーのほとんどはアウト。

今まで何度も書いてきたように、急に拡大解釈が始まったのではなく、とっくに警察庁が出していた方針通りの運用がなされ始めているだけです。カウンター越しでも接待であるという方針を遅くとも昭和30年代には出していたことを多くの人が知らなかっただけ。

深夜酒類提供飲食店の届出だけでやっているスナックで、カウンター越しにビールを注ぐだけでも、煙草に火をつけるだけでも、世間話をするだけでも、カラオケに手拍子を打つだけでも、トランプをやるだけでも、手相を見るだけでも無許可営業ということになり得るわけですが、これを大々的に報道する意味があるのかどうかくらい考えればいいものを、メディアは警察発表を垂れ流すことに疑問を抱きません。その程度の判断もできないメディアに気づかせるためには、やはりアクションが必要です。

メディアが水商売や性風俗には冷静な判断を働かせない報道を続けているのに対して、クラブには好意的な報道をし始めているのは、Let’sDANCEのおかげです。Let’sDANCEの署名運動がストレートには風営法改正につながらなかったとしても、問題を可視化させる意義は十分にあって、ここにおけるLet’sDANCEの貢献はとてつもなく大きい。とてつもなく大きいがゆえに、批判する際に躊躇してしまうところがあるわけですが、それはそれ、これはこれってことで。

ついでに書いておくと、残念ながら、「クラブだけの問題ではないのだ」と大声で呼びかけながら、他業種に無関心な人たちが多いわけですが、自分たちがまず他業種に関心を持つべし。こういうことが一方で起きていることを知らしめた方がクラブでメシを食っている人たち、クラブを利用している人たちにとってもメリットがあります。

クラブの摘発について、あるいは法改正について、「だって、違法なんだろ。法律を守ればいいだけじゃないか。今まで違法営業をやってきておいて、今さら何を言っているんんだ」と言う人たちがいるわけですが、じゃあ、こうやってカウンター越しにビールを注いだだけで逮捕されて晒し者になっていいんかって話。

二丁目だってゴールデン街だってそうですが、夜の9時以降に人が集まり始め、夜の11時頃から深夜3時頃までがピークである地域がたくさんある。飲み屋の人が飲みに行く店だってあって、夜の11時でもまだ客が来てなかったりする。こういう店では、午後6時に店をあけて、12時あるいは1時で閉店ではとうていやっていけない。

これは生活サイクルの問題で、会社を8時に出て、それからメシを食いに行って、飲みに行くのは9時以降。ちょっと残業が伸びればスタートは10時、11時になる。焼き鳥屋や居酒屋だったら「食事を兼ねて」ということもありますけど、スナックやゲイバーは乾き物くらいしかありませんので。

世の中には正規の労働時間が深夜までという人たちもいるわけです。コンビニや深夜までやっているドラッグストアの店員だったり、警備の仕事だったり、鉄道関係の仕事だったり。工場の夜勤もありますね。

店がやっていけないだけではなく、そういった利用者の利便を考えても、現行の風営法による営業時間の制限には無理があって、それが膨大な違法営業を生み出している。

これも前に書いているように、純然たる遊びで来ている客を相手にする温泉地の歓楽街でも、時間の制限のために金を使わせることができない。以前はそうだったように、その地に適した条例によって時間を決定することができた方がいいと思う。そのためには風営法を改正するしかない。

この程度のことさえ想像できない人たちに理解してもらうためには、クラブだけではなく、水商売の問題をも可視化させた方がいい。

「クラブなんてどうせバカな若いヤツが集まっているだけだろ。法律を守れればいいだけじゃねえか。許可をとれよ、ヒック。なあ、ママ」と言いながら、スナックでビールを注いでもらっているようなバカなオッサンにも理解してもらうために、クラブ関係者、クラブ利用者はもっと視野を広げた方がいいかと思います。

何度も繰り返しているように、これはただクラブの問題だけでなく、浄化作戦から始まった法の厳格化の流れであり、クラブだけを見ていても全体像がわからない。クラブも飲み屋も性風俗も所轄では担当者だって一緒だったりします。ストリップだと公然わいせつになって、警視庁や県警本部の課が違ったりしますが、部署は一緒。あっちは一貫した動きとしてそれらを取り締まっているわけですから、別の動きのわけがない。

ストリップ劇場では客まで捕まるようになってますからね。ポラサービスに関わる容疑なのですが、それにしてもどういう状況で幇助が適用され得るのか、私には意味がわかりません。どういう論理かを知りたくて所轄に問い合わせたのですが、一切教えてくれず。

これに限らず、幇助の拡大および正犯の拡大が進行していることも見ておいた方がよいと思います。既成事実化したあとで、他の業種にも適用してきますので。

話が長くなったので、前回の続きは次回やります。

このエントリへの反応

  1. Let’s DANCEの運動に参加した頃からこういう問題は意識していました。
    私も北新地で働いていたこともありますので、他人ごとには思えません。

    やっとそういう事を訴えていっても社会的に受け入れられる気風が出来つつあるのかなと思っています。

    私自身は風営法を一から見直すべきと考えています。
    宮台さんが言う「新住民」が問題なのか、警察権限の拡大なのか、私ははっきりした原因を突き止めていません。(松沢さんご指摘の浄化作戦は大きな原因と思っています)
    ただ言えるのはタバコや自転車やアニメやダウンロードなど規制されるものが次々に増加傾向にあるということ。
    マナーの問題などもありますが、法律によって厳格化されていくと行き過ぎと思えることも多々あるように思えます。

    そうした中で萎縮ムードが蔓延し、経済が低迷していくのを関連が無いとは思えないのです。

    働けばストレスが溜まる。
    そのストレスを発散する嗜好や娯楽が規制されていく、又は強化・厳格化されていく。

    もうそろそろ、「俺にはかんけいねぇ〜!」なんて言ってないで、遊び場も大事な生活圏なのだから声をあげてもいいと思います。

  2. 金光さんはTwitterでもそういうことを書いていますけど、それ以外の人たちは他業種に冷たすぎ、無関心すぎかと思います。メディアも同様で、「クラブを守れ」は言えても「ガールズバーを守れ」とは言いにくいのか、そもそも意識がそちらに向かわないのか、事情がさっぱりわからない。

    でも、これは世間一般の意識を反映しているんでしょうね。たかが飲み屋、たかが遊び。デモで逮捕されると弁護士たちも立ち上がって「不当逮捕だ」と大きな騒ぎになるのに、こういう産業で逮捕者が出ても知らんぷり。

    これまでにも「摘発された店とそうじゃない店」「大阪とそれ以外」というところに温度差が生じていて、今は「クラブとそれ以外」に温度差が生じていて、飲み屋が動き出すのは10年後くらいじゃないですかね。ホントの話。私はもう諦めてます。

    そんな中、Let’sDANCEにしても、金光さんの裁判にしても、驚嘆すべきことであります。そこはナンボでも私は賞賛するし、擁護もするんですけど、それはそれとして、Let’sDANCEの内容については「うーん」と唸ってしまうのであります。