2011-04-27

お部屋2201/福島の校庭が意味すること

相変わらずメルマガでは、原発について書き続けていて、今週中にはそのシリーズが100回に達しそうです。

それを書くのに忙しくて、「黒子の部屋」に出している暇がないですが、たいていのことは、他の誰かがどっかで指摘していることなので、私が言うまでもない。

しかし、時々、いつまで経っても、誰も指摘しないことがあります。わざわざ言うほどの内容ではない場合はほっとけばいいとして、福島の校庭問題については、しっかり指摘しておく必要がありそうです。20ミリシーベルト/yという基準のひどさについては指摘されていますが、その先については十分に指摘されていないみたいなので。校庭の表土を除去しただけでは問題は解決しないのです。

そう思って、先週、ツイッターでつぶやいたのですが、あんまり相手にされなかったので、こちらにも書いておきます。
 
 
今知ったニュース。「東電の社員を含む女性3人が限度を越える被曝」

女性放射線業務従事者の被曝限度量は男性と基準が違うのか。

電離放射線障害防止規則に定められています。

—————————————————————————————————

(放射線業務従事者の被ばく限度)

第四条  事業者は、管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

2  事業者は、前項の規定にかかわらず、女性の放射線業務従事者(妊娠する可能性がないと診断されたもの及び第六条に規定するものを除く。)の受ける実効線量については、三月間につき五ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。

—————————————————————————————————

しかし、第七条の「緊急作業時における被ばく限度」からすると、女性も年間100ミリシーベルト、現在は250シーベルトまではいいのでは?

法はともあれ、女性の場合は通常の数値を限度とするのもいいでしょうけど、ここで注目して欲しいのは、女性が受ける被曝線量は3ヶ月で5ミリシーベルト、1年で20ミリシーベルトってことです。男性も5年を均せば同じです。

福島の子どもたちは、男女ともにこの数値でいいというのが、政府の見解です。「女性3人が限度を越える被曝」どころか、少なくとも数百、おそらくは数千といった単位の子どもたちがこの数値の被曝を強いられようとしています。

長いですが、以下は文科省の説明

—————————————————————————————————

1. 学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安について

学校等の校舎、校庭、園舎及び園庭(以下、「校舎・校庭等」という。)の利用の判断について、現在、避難区域と設定されている区域、これから計画的避難区域や緊急時避難準備区域に設定される区域を除く地域の環境においては、次のように国際的基準を考慮した対応をすることが適当である。

国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続等の緊急時の状況における基準である20〜100mSv/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1〜20mSv/年を適用する地域の併存を認めている。また、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベル(※1)として、 1〜20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。

このようなことから、児童生徒等が学校等に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1〜20mSv/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。

※1 「参考レベル」: これを上回る線量を受けることは不適切と判断されるが、合理的に達成できる範囲で、線量の低減を図ることとされているレベル。

また、児童生徒等の受ける線量を考慮する上で、16時間の屋内(木造)、8時間の屋外活動の生活パターンを想定すると、20mSv/年に到達する空間線量率は、屋外3.8μSv/時間、屋内木造1.52μSv/時間である。したがって、これを下回る学校等では、児童生徒等が平常どおりの活動によって受ける線量が20mSv/年を超えることはないと考えられる。また、学校等での生活は校舎・園舎内で過ごす割合が相当を占めるため、学校等の校庭・園庭において3.8μSv/時間以上を示した場合においても、校舎・園舎内での活動を中心とする生活を確保することなどにより、児童生徒等の受ける線量が 20mSv/年を超えることはないと考えられる。

2. 1.を踏まえた福島県における学校等を対象とした環境放射線モニタリングの結果に対する見解

平成23年4月8日に結果がとりまとめられた福島県による学校等を対象とした環境放射線モニタリング結果及び4月14日に文部科学省が実施した再調査の結果を踏まえた原子力災害対策本部の見解は以下のとおり。

なお、避難区域並びに今後設定される予定の計画的避難区域及び緊急時避難準備区域に所在する学校等については、校舎・校庭等の利用は行わないこととされている。

(1)文部科学省による再調査により、校庭・園庭で3.8μSv/時間(保育所、幼稚園、小学校については50cm高さ、中学校については1m高さの数値:以下同じ)以上の空間線量率が測定された学校等については、別添に示す生活上の留意事項に配慮するとともに、当面、校庭・園庭での活動を1日あたり1時間程度にするなど、学校内外での屋外活動をなるべく制限することが適当である。

なお、これらの学校等については、4月14日に実施した再調査と同じ条件で国により再度の調査をおおむね1週間毎に行い、空間線量率が 3.8μSv/時間を下回り、また、翌日以降、再度調査して3.8μSv/時間を下回る値が測定された場合には、空間線量率の十分な低下が確認されたものとして、(2)と同様に扱うこととする。さらに、校庭・園庭の空間線量率の低下の傾向が見られない学校等については、国により校庭・園庭の土壌について調査を実施することも検討する。

(2)文部科学省による再調査により校庭・園庭で3.8μSv/時間未満の空間線量率が測定された学校等については、校舎・校庭等を平常どおり利用をして差し支えない。

(略)

—————————————————————————————————

そもそも批判の多い国際放射線防護委員会(ICRP)の参考レベルを採用したこと自体問題です。放射線業務従事者と一緒ですよ。

放射線業務従事者が高い数値になっているのは、放射線の知識や防御の方法があり、被曝量の測定ができる環境にあるからです。また、内部被曝は通常考慮する必要がないからです。それを防御方法もなく、内部被曝があり得る一般の人に適用し、子どもも区別しない。あまりに無謀です。狂っていると言ってもいい。

今、この国では、大気、水、食べ物から、イヤでも放射線を浴びる生活を強いられています。なのに、大気からの被曝量だけで20ミリシーベルトを受けていいとしている。放射線に対する感受性が強い子どでも。

しかも、福島では、4月に入ってからの数字を元にしています。つまり、ヨウ素の数値が大幅に落ちてからのものであり、これ以降はほとんど落ちません。おそらく事故直後は、数値が倍以上あったのではないか。すでにその数値を子どもたちは被曝している可能性がある。これ以降は、できるだけ下げるしかないのですから、たとえば通常の年間被曝限度である1ミリシーベルトの2倍から3倍程度が最大値でしょう。

しかし、文科省にはその気がないようです。

これに対して、郡山市は校庭の表土を除去することを決定。セシウムはすでに石や土、砂に固着していて、そう簡単には飛ばされたり、流されたりはしませんので、こうする以外に数値を下げる方法はないと思われます。

しかし、これでは問題は解消しません。気休めにしか過ぎないと言っていい。ここで安心しないでください。

3.8マイクロシーベルト/hは、年に直すと、33.29ミリシーベルトになります(小数点3位以下は四捨五入)。しかし、屋内では数値が落ち、「16時間の屋内、8時間の屋外活動」を前提に3.8マイクロシーベルト/hが算出されています。

今現在、木造校舎の幼稚園や小学校は少ないでしょうけど、存在はしていますから、ここでは建物をすべて木造と計算しています。家も木造を基準にしていて、木造の建物内にいる場合、線量は4割になるとして計算されています。1.52マイクロシーベルト/hです。鉄筋の建物の内部では1割程度に落ちるのに対して、木造では、核種によって、つまり線種によって、家の状態によって、家の中のどこにいるのかによって違ってきて、4割という設定が正しいのかどうか疑問がありますが、ここはそのままにしておきます。

「1日8時間も屋外にいるのか」「学校で4時間も屋外にいるのか」との疑問もありましょうが、夏休みや日祭日などの休みの日にも、部活などで長時間校庭にいることもあるわけですから、比較的、長い時間屋外にいるグループを基準にするのはおかしくはない。

これらの計算は、学校の敷地内だけでなく、登下校に通る道、自宅、学校外で遊ぶ場所などがすべて校庭と同じ数値であることを前提としていて、現実には、校庭だけが高い数値になっていることもあるでしょうが、自宅はもっと高いこともあり得ます。雨が溜まるため、屋根の下や雨樋、側溝は高い数値が出やすいことがすでにわかってますので、むしろ家の庭や路上の方が危険かもしれない。

では、文科省の指導通り、校庭の使用を1時間に抑えてみましょう。

8時間の屋外活動のうち、半分の4時間は登下校や学校外での活動だとして、残り4時間が学校での体育や休み時間、部活などの学内活動とします。うち1時間を残して、あとを屋内に切り替えると、1日のうち、5時間が屋外、19時間が屋内になります。

屋内が10.54ミリシーベルト/y、屋外が6.9ミリシーベルト/yとなって、計17.44ミリシーベルト/yです。つまり、2.56ミリシーベルト/y、12.8パーセントしか減らないのです。

学校では一切屋外に出ないとしても、2割弱しか減らない。

活動を最大限制限して、登下校など必要最低限の2時間以外、一切屋外に出ない生活をすれば、14.9ミリシーベルト/yまで下がりますが、そこまでしても、4分の1強しか減らない。

もちろん、校庭は、砂ぼこりが口や鼻に入る、怪我をするなどのリスクがある場所ですから、ここに着目するのは間違っていないですし、表土を削り取るなどの措置をしないよりはした方がいいのは言うまでもない。しかし、そうしたところで、被曝量を減らすのは難しい。

福島市内だけに限っても、4.8、4.9マイクロシーベルト/hといった数値の出ている小中学校があります。具体的な数字は福島県のサイトを参照。

子どもに対する大気からの被曝だけで20ミリシーベルト/yを基準にすること自体無理があるわけですが、子どもが1日2時間しか外出しないという、これまた無理な対策をしても、なおこれらの地域では20ミリシーベルト/yを越えてしまう。

つまり、校庭の数値を下げればいいってことではなく、福島県内の隅々を測定して、数値の高い地域に関しては、子どもたちだけでも避難する必要があります。

そんなことは文科省だってわかっていて、わかっているから、年間20ミリシーベルトという高い限度を設定した。そうしないと、さらに避難地域が拡大しますから。そのために、子どもたちが将来どうなろうと知ったことではないと。

それでも、その限度を越える学校があった。また、その周辺部も同様の数値になっていることが推測できる。

3.8マイクロシーベルト/h未満の校庭はそのまま使用していいとするのもデタラメすぎます。あくまで、この数値は、あるモデルを想定して決定されたものでしかなく、校庭以外は、より高い数値かもしれない。平均8時間以上、屋外にいる生徒もいるかもしれない。なんにせよ、元になっている20ミリシーベルト/yが高すぎますから、基準の3分の1、4分の1だとしても注意を喚起すべきです。

すでにあちこちで指摘されているように、電離放射線障害防止規則では、「外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が三月間につき一・三ミリシーベルトを超えるおそれのある区域」は「標識によって明示しなければならない」となっていて、福島県内の多数の学校は放射能マークを表示しなければならない。それだけでなく、家、路上、空き地、公園、河原、農地などなど、あちこちに表示しなければならなくなっているのです。さらには、茨城、千葉など他県にまで及ぶかもしれない。

福島市では、行政を信頼できず、父兄の間から、集団で子どもたちを疎開させようという動きが出ています。親たちの避難は容易ではないですから、その方法が私も適切だと思います。その間に調査をして、対策をとれたのちに戻ればいいだけのことです。

気になって仕事にならないので、頼むからそうして欲しい。できるだけ早くそうして欲しい。
 
 
※こういう計算に対して、「自然放射線量が入っているので正しくない」と文句をつけるのがイチャモン屋たちの間の流行みたいですが、飲食を除く自然放射線量は、日本では0.6ミリシーベルト/y程度です。1時間当たりのマイクロシーベルトで言えば、小数点2位以下の話。また、コンクリートは放射線量が増えるという話もイチャモン屋の間で流行みたいですが、これも1時間当たりで言えば、小数点2位以下の数値ですから、ここで論じているようなレベルの話では無視していいでしょう。

追記1:結局、郡山の計画は削り取った土の処理を考えておらず、計画は頓挫したみたいです。先に考えろよって話かと。これによってどの程度、屋外、屋内の線量を減らせるのか知りたかったんですけどね。数学バカのくせにまた計算しなきゃいけないですが。

追記2:表土の除去でどの程度の効果があるのかわかったので、2205「福島の校庭その後」を書いておきました。

このエントリへの反応

  1. 原子力安全委員会は20mSvを否定、文科省の決定に根拠なし。

    「20mSvを基準とすることは、安全委員会は認めていない」
    「基準は子供と大人を違うものとみて、成人と同じとしていない」
    「内部被曝を重視するように、文科省にも伝えている」
    「4人の安全委員は、子供が20mSv浴びることを誰も許容していない」

    http://www.youtube.com/watch?v=sGu9M9WAAHw

  2. 越後屋さま

    IWJとは別の動画ですね。市民グループ側が撮っていたのかな。彼らはすごいなあ。感服します。