2009-07-02

お部屋1890/『エロスの原風景』の裏庭風景 5・宮武外骨とプランゲ、ついでに私(上)

『エロスの原風景』は無事発売になったし、こっちでも自分のインタビューを出していくことになったので、「『エロスの原風景』の裏庭風景」シリーズはもう終わってもいいのですが、「これだけは書いておきたい」という話があります。長くなったので、3回(上・中・下)に分けます。

もともと私を「日本一のエロ本コレクター」と言い出したのはなべやかんです。それまで、そんな自称をしたことはないのですが、やかん君は、私を誰かに紹介する時に必ず「この人は日本一のエロ本コレクターです」と言い、そんな時に「いや、よくわからないです」と注釈を入れるのが面倒で、いつの間にか私のキャッチフレーズのようになってしまいました。

そうこうするうち、初対面の人からも、「やかんさんに日本一のエロ本コレクターって聞いてました」と言われるようになります。あの男、どんだけプロモーションしているのでありましょう。

また、これは別の人の仕業なのですが、お笑いイベントに招待されて、受付で「松沢です」と名乗ると、「日本一のエロ本コレクターの松沢さまですね」と大きな声で言われたこともあります。ゲストリストを見たら、「日本一のエロ本コレクターの松沢」と書いてありました。

わかりやすいからまあいいですけど。

エロ本と言っても範囲が広くて、「遊廓もの」「ビニ本」「裏本」「カストリ雑誌」「SM雑誌」「地下本」「戦前の軟派もの」などなどのジャンルがあって、いくつかのジャンルでは私が日本一だろうと思われますが、ジャンルによっては私より多くのコレクションを所有している人がいます。

例えば「遊廓もの」であれば、花柳界や日本舞踊関連の延長で集めている人、売春史の資料として集めている人、江戸文化のひとつとして集めている人などがいますが、この人たちの中に「裏本」までを集めている人はほとんどいないでしょう。

「裏本」のコレクターでは、2名ほど、ものすごいコレクターを知ってます。知っていると言っても、2名とも面識はないのですが、片方の人はそれ用のコレクションルームをもっているそうです。また、人を介して、もう片方の人の所蔵本リストをもらいまして、それを見ると、ほぼパーフェクトと言っていい。私は足下にも及ばない。

では、この人たちが、「地下本」を集めているかと言えば集めてないでしょう。あれだけの裏本を集めていたら、他に手が回らないはずですから。

地下本については、こちらに私はかなわないです。

つまり、私の特性はエロだったら、なんでも集めているところにあります。ロリ系やエロ漫画はコレクターが多いので、他の人にお任せですし、今現在のものも全部買っているはずがないですが、これだけ広い範囲で集めている人はいないかと思います。広い範囲でのエロ本で日本一ってことです。

では、なぜこれほどまでに集めるようになったのか。もちろん、エロが好きってこともあるのですが、興奮を得たいなら、ホモものや戦前の本まで集めたりはしません。

簡単に言えば使命感です。決して大袈裟ではなく。

7月1日午後10時からNHK「歴史秘話ヒストリア」をたまたま観てしまいました。この日のテーマは宮武外骨です。いまさら私の知らないような話は出てこないだろうと眺めていたのですが、この番組は注目されることの少ない外骨晩年の業績「明治新聞雑誌文庫」にスポットを当てていて、感慨深く観てしまいました。もちろん、私もその存在は知っていますし、宮武外骨が編纂した所蔵目録『東天紅』も所有していますが、宮武外骨が晩年この仕事に専念したことを積極的にとらえ直した視点は新鮮でした。

それまで精力的に雑誌を出し続けた宮武外骨は、昭和2年に東京帝大に設立された明治新聞雑誌文庫のために古本屋巡りをするようになります。それまでにも古い新聞や雑誌を収集していましたが、これ以降はそれがメインの仕事となります。そのため、ある人々はその存在を忘れ、その現在を知る人々は「権威、権力を嫌い、闘ってきた外骨が帝大の職員になるとはなにごとか」と非難。

しかし、表現が次々と潰されていく中、宮武外骨は、後世のために、その記録を残すことが使命だと感じ、その使命を果たすために帝大という存在を利用したようです。都合の悪い表現を消すのが時の政府の方針であり、それを残すことこそが宮武外骨の闘いでした。その闘いのためには、帝大という強い力が必要だったのでしょう。

こういった宮武外骨の側面をしっかりととらえたこの番組に感心しましたが、70年も80年も前の人物を評価するのは簡単です。「表現を潰す政府はひどい。外骨は偉い」と言ったところで、自分の足下は揺るがない。言いっぱなしでいい。

しかし、果たして、宮武外骨が消えてから半世紀の間、表現は本当に守られ、保存されてきたのかどうか。今なおこの社会には、叩かれ、笑われ、忘れられていく表現物があることを直視せず、宮武外骨を讃えることほど滑稽で醜悪なことはあるまい。

NHKのあの番組を見てもわからなかったでしょうが、宮武外骨にはエロに関する著作が多数あり、それがために発禁にされてもいて、センズリについて書かれた無記名の地下本『玩索考』も宮武外骨によるものだと言われています。あたかも、政治的な表現、社会的な風刺においてのみ闘っていたかのように扱うこと自体が、表現を消す側に立っていることに相違ありません。(続く)

このエントリへの反応

  1. [...] これで私は引き続き、本の内容がわからないことを書き続けられます。前回を読んでいない方はこちらをお先にどうぞ。 [...]

  2. [...] 宮武外骨とプランゲ、ついでに私(上) 宮武外骨とプランゲ、ついでに私(中) [...]

  3. [...] 3・見えない歴史 『エロスの原風景』の裏庭風景 4・チンコ展 『エロスの原風景』の裏庭風景 5・宮武外骨とプランゲ、ついでに私(上) 『エロスの原風景』の裏庭風景 6・宮武外骨とプランゲ、ついでに私(中) [...]