2008-07-04

お部屋1565/出版界崩壊は止められないがために 13

ネッツのような組織に意義があるのは、横のつながりができることだったりもします。ただ加入しているだけではそうはならないですけど、積極的に関与すれば自然とそうなります。

横のつながりができれば、「どこどこの出版社は未払いが始まった」「どこどこの出版社は平気で踏み倒す」などなどの情報が流れやすくなって、いち早くトンズラしやすくなります。

フリー同士は交流が薄かったりするものです。仕事は編集者を介しているために、連載のカットをやってくれているイラストレーターに会ったことがなかったり、デザイナーの名前も知らなかったり。

たまたま忘年会で会ったり、対談で一緒になったりした時に顔を合わせたり、仕事はしたことがないのに飲み屋で知り合ったりして、そこから交流が始まるケースがあるくらいで、私自身、日常的な交流のある同業者は数えるほどしかいません。

その点では、かつてのSM業界、さらには風俗業界全体と似ているかもしれません。横のつながりが薄く、仲間意識も薄い。出版業界におけるSMバーの役割は、もしかすると、ネットかもしれない。雷句誠氏の一件で、こうも情報が流れるようになっていて、この一点をとっても雷句氏の行動には意義がある。

その上、フリーの中にはなぜか「原稿料や印税率を公開してはいけない」と思い込んでいる人たちがいます。「安くてみっともない」「ランクをつけていることを知られたくない」などの理由から、出版社によっては嫌がるでしょうけど、私は今まで何度か公開しています。いやがらせでもなんでもなく、ワシらフリーがどうやって生活しているのかの数字を見せるためです。

印税や原稿料を払わない出版社があったっていい。書き手もそれを納得していればいいだけのこと。それを知らずにうっかり仕事をしてしまうのは互いにとって不幸です。だったら、これは広く知らしめた方がいい。

こういうことをフリーがもっとやっていけばいいんだと思っていて、そういう試みもすでにあります。そうすることによって、選択もできるし、交渉もできる。交渉する気のない人たちにとっては意味がないですけど。

そういう情報を流通させる機能が組合にもあると思うのですが、未払いについての団体交渉、情報の流通以上には、組合が関与できる余地は少ない。あとは社会に対するメッセージを出す役割くらいか。表現の規制に対する反対とか。

通常、労働組合と言えば賃上げが最大の存在意義だったりするわけですが、出版界におけるフリーの組合はこれも難しい。「原稿をタダで書いてはいけない」「原稿を安く書いてはいけない」なんてルールはどこにもないわけですから、「最低原稿料」なんてものを設定することもできず、組合員が「最低1枚5千円」なんて要求をしたら、非組合員は「オレだったら3千円で十分」と言いだして、結果、仕事はそちらに回るだけってことになりかねない。ワシはそっち側だす。3千円ならエロ雑誌の標準ですし。

未払いについては金額の多寡を問わず、「払え」ということで一致団結できても、ギャラの金額については「少ない本数を高いギャラで」と考える人たちと、「安くていいから数多くの仕事を」と考える人たちではうまくいきっこない。

また、小学館や講談社に対しては集団で「1割アップ」をするのもありだとしても、私が主に今つきあっているエロ系の出版社でそんなことをしたら、雑誌が潰れてしまったり、会社が潰れてしまって、書き手も困ります。

数年前のこと、雑誌(エロ系ではないです)がいきなり廃刊になって、私の担当編集者が執筆者に申しわけがないと思ってか、この先の連載予定分のギャラの支払い(半額だったかな)を会社に要求すると言いだしたことがあるのですが、その会社が儲かっているわけではないことはよくわかっていたので、私は「書いてもいない原稿のギャラは請求できない」として、その話をお断りしました。そのあとどうしたかは聞いてないです。

雑誌が売れなかったのは書き手にも責任があって、一方的に出版側を責める気はしない。責めるべきと判断できる時はそうするとして、この時は責めるべき理由が私には見当たりませんでした。

年収1千万円以上もらっている出版社の編集者に対しては、そんな気持ちにはならないですが、弱小出版の編集者との間には、カッコよく言えば同志的な感情さえあって、契約、組合といったものがどうも馴染みにくい。

特にマニア系の雑誌は、どこも雑誌本体は赤字、よくてトントン、その総集編であるムックで辛うじて利益を出している状態です。編集者たちは安い給料で過重労働を強いられていて、契約書だのエージェントだのなんて言っている場合ではない。

結局のところ、一言で「出版界」とまとめられるものではなく、一言で「出版社」「ライター」「漫画家」とまとめられるものでもないのですから、ケースバイケースとしか言いようがなく、多くの問題は、個人が個別に対応することで解消していくしかなく、情報の開示は、その対応のサポートになるでしょう。

続く。