2008-07-03

お部屋1564/出版界崩壊は止められないがために 12

いくら言ってもギャラを払わないようなケースに対しては時には団体交渉も必要であり、そのために、フリーの組合である出版ネッツが存在しており、機能もしています。

今回のことに限らずですが、すでにネッツがあるにもかかわらず、どうして「フリーの労働組合を作るべき」なんて話をする人がよくいるんでしょう。自ら加入して、その存在をより広くの人に伝えればいいのに。

その意義は十分に認めつつ、私も加入していないのですが、結局、出版業界のフリーにおいて、労働組合はリアリティがないんだと思います。「出版界はどうしたらいいのか」「フリーの未来はどうなるのか」なんてテーマを語る時に、「ないことを嘆く」ために使われる役割を担わされているだけで、こういうことを言う人たちも本当に組合が必要だとは思っていないってことでしょう。

ここは日本のセックスワーカーたちの組織化が難しいことと通底しているところがあります。

世界的に見ても先駆的な売春婦の組合が赤線時代には組織されたわけですが(戦前から、店単位でカフェーの女給組合があったり、遊廓のストライキもありましたが、本格的な組合は戦後になってから)、当時は仕事のありようも似通っていて、境遇も似通っていましたし、1年、2年という単位で同じ職場で働くことが多かったわけです。なおかつ、赤線に対する規制が強まり、売春防止法案(法案の時点では「売春禁止法案」)が出されるに至って、それに反対するという目的が生じ、これによって全国に存在していた組合の全国統一もなされます。

対して、現在はあまりにバラバラ。業種も仕事内容もバラバラ、店の方針もバラバラ、条件もバラバラ、境遇もバラバラ、目的もバラバラ、意識もバラバラ。稼ぐ金もバラバラ。働く期間も短く(平均一年未満とも言われています)、学生や主婦、OLなどのバイト風俗嬢も多いため、セックスワーカーであることの自覚も薄い。いざ何か問題があったら、とっとと別の店に移ればいいだけだったりもします。

こういう状況の中で、何が必要なのかと言えば、より情報をスムーズに流すことです。選択肢があることを知らしめ、それによって競争原理が働くようにして、悪質な店を排除していく。組織に属すか属さないかを問わずして、個人がその情報を容易に得られるようにする。

その役割を今までは風俗誌や求人誌が担ってきて、現在はネットが担っているところがあるのですが、まだ十分ではないので、新しくネットで情報をスムーズに流す試みを近々始める予定です。詳しくはそのうち。

いろんな試みをやってきてつくづく思うのは、その業種の特性やその業種に就いている人たちの特性を見極めないと、いかに理想を掲げてもうまくいかないってことです。

HIV予防においても、そのグループの特性に応じた個別の対策を講じるようになってきているのもその反省を踏まえてのことです。

出版界も同様で、この業界におけるフリーもあまりにバラバラ。収入もバラバラ、テーマもバラバラ、仕事に対する考え方もバラバラ、仕事のやり方もバラバラ、収入もバラバラ。

放送作家をやりつつ雑誌の仕事をやっている人、CDショップで働きながら音楽誌に書いている人、主婦をやりながらライターをやっている人、学生をやりながらライターもいます。大学や専門学校の教員をやっている人もたくさんいます。

ちょっと前に私の担当編集者が退社したのですが、どうするのかと思ったら、イラストレーターになるとのこと。これまでにも編集者をやりながら、バイトとしてやっていのだそうです。全然知りませんでした。

そういったいわば「アルバイト層」も大きく、専業でやっていても、常にいくつもの雑誌で仕事をこなしている人たちが多いのがフリーの特徴でしょう。

そのため、未払いが始まったら、早いうちに逃げるのが賢明です。そうしている限り、もともと単価が安いために何百万もの債権が発生するなんてことは考えにくく、5万円のために交渉するんだったら、次の雑誌を探した方がいい。そう簡単に次は見つからないものですが。

私がとりっぱぐれた原稿料の最高はたぶん30万円台です(他業種の仕事ではもっと大きいのがありますが)。この時は雑誌が潰れたためです。今考えると、この時も未払いが始まった時に仕事を降りるべきでした。

会社が潰れた時、雑誌が潰れた時のギャラの未払いについては、泣くしかないところもあります。出版社自体が存続している時は当然請求しますが、潰れた時はどうやってもたいていは無理です。

会社が潰れても、社長が個人資産を溜め込んでいるなら、「それを吐き出せ」と言いますが、経営者も貧乏、編集者も貧乏、書き手も貧乏ですから、「金を寄越せ」と言ってもないものは払えないでしょう。この場合、社員の給料が優先されるのは当然です。ワシらはいろんな会社で仕事をできるのに対して、原則、社員はそこからしか収入がないわけで。

もちろん、一社でしか仕事をしていないフリーの人は多額の債権が発生することがありますから、ネッツに入っておいた方がいいんじゃないんですかね。

続く。