2008-06-27

お部屋1557/出版界崩壊は止められないがために 6

専属契約があれば、漫画家は他に行くこともできない。今何をしているか知らないですが、以前仕事を一緒にやっていた漫画家は飼い殺し状態になっていて、カットの仕事は他社でやることができても、漫画は描けない状態になってました。生活の保証はあるにせよ、あの状態は苦しいでしょう。

しかし、新條まゆさんによると、小学館では専属契約はないんでっすってね。だったら、なんで小学館以外で仕事をしないのでしょう。

http://blog.mayutan.com/archives/51397618.html
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漫画家は世間知らずが多いです。社会人として働いた経験があるわたしでさえも
「他社で描くなら、今までの出版物はすべて絶版」と言われた時、
「じゃあ、ダメなのか・・・」と一度はあきらめました。
この時すでに、他社の編集部からいろんなお仕事の引き合いがあって
その方々が「そんなことは絶対にあり得ない!作品は作家のものであって
出版社がどうこうできるものじゃない!
そんなことを言う編集者が本当にいるのか?」と驚かれたので、
初めて「ああ、脅されてるのは自分なんだ」と気がつきました。
他社の編集者から驚かれたのはこれだけではありません。
小学館の編集者の態度、発言、作家に対しての扱い、あらゆることが
「信じられない」と言われました。
小学館で育った作家は、他社の扱いを知りません。
どんなにひどいことを言われても、それが当たり前だと思っています。

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世間知らずにもほどがあります。

出版契約期間が切れる時に契約更新をせずに出版社が絶版にすることは可能ですけど、契約上、それ以外で理由なく絶版にすることはできず、絶版にされたところで、売れているなら、他で出せばいいだけです。売れているなら、権利を引き上げられて困るのは出版社です。

出版社の多くは、売れなくなっても、自ら絶版にすることはまずありません。「品切・増刷予定なし」の状態にしておく。たまたま何かの拍子でその書き手が売れて、旧作も動くことになったら、慌てて増刷したり、文庫にしたりするためです。

以前、知り合いの出版社が、ある漫画家の品切れの本を出したく思い、漫画家に問い合わせたところ、本人も快諾。ところが、出版社側がゴネたのであります。増刷する気はないけれど、他に持っていかれたくはない。この時はたしか版権を借りる形で出せることになったと記憶しますが、こういう場合は著者がその本を絶版にして、他から出してもかまいません。商品価値があるにもかかわらず、売る努力をしないとなれば、契約不履行ですので。

しかし、元の出版社と決裂はしたくないため、なかなかそうはいかないのでしょうね。ここは漫画家側の気持ちの持ちようでもあります。

今回、ネットを見て回って、漫画家を下請けとして語っている人が多くて驚きました。

以前からずっと主張していることですが、金銭の流れだけを見るとそう見えても、パーツを作っている下請け企業に漫画家やライターをなぞらえるのは、権利という意味で見た時には誤解を招きます。あえてそれになぞらえるのであれば、そのパーツに関する特許をもっている町工場になぞらえるべきです。

つまり、漫画家、ライター、イラストレーター、カメラマンは著作権という権利を所有して商売をしています。例外もありますが、それらの表現物は、出版社がいわば「借りて」商売をしているに過ぎず、どこまでも権利は著作者にあります。

その意味では俳優やミュージシャンたちにも近い(彼らは隣接権と肖像権ですけど)。俳優を映画産業の下請け労働者とは言わないでしょう、普通。

とは言え、大多数の漫画家やライターは交換可能なパーツであるのも事実であって、一部の売れっ子以外、「A社は嫌いだから、B社で仕事をしよう」と自由に選択することはできないわけですが、原理としては単なる下請けではない。

なのに、生かすも殺すも編集者の一存でどうにでもなるかのように思わされ、反抗することもできず、反抗すれば本を絶版にされ、仕事を降りれば他の会社でも仕事ができなくなると思わされてきたわけです。

これもまさにSM業界と一緒です。かつてはSMクラブの管理が厳しくて、よその女王様と接点を持たせないようにしていた店がありました。今も地方に行くとそういう話を聞くことがあります。

閉ざされた空間で、「いかにうちは他の店より条件がいいか」「いかに他はひどいか」を教え込まされる。暗黙の了解で、それぞれの店が、同じ地域内で働いていた人間は採用しない場合もあって、こうなると、事実、移動が容易ではない。

他店に移っても、やり方が合わなかったり、思うように稼げなかったりして戻ってくるのもいて、こういったケースをことさらに強調して、「辞めたって、どうせ戻ってくるんだから」と脅しの材料に使う。あるいは「戻ってこようとしたのがいたけど、うちはもうあんなのはいらないよ」と語ることで怯えさせる。

どこぞの出版社とそっくりですねえ。

これはかつて風俗産業全体で行われていたことだったりもするのですが、今の時代はこのやり方は通用しにくい。むしろ、この方法を維持しようとすると、そのことで人が離れてしまいます。古い時代の古いやり方は単に効果がないだけでなく、逆効果になって、結局店が損をする。

続く。