2007-09-11

お部屋1327/今日のマツワル50

事情により、月末まで「黒子の部屋」の更新はありません。

今回の続き「パクリのリスク31」はこのあと配信しますが、「黒子の部屋」には転載しませんので、購読者以外の方々は、各自考えるように。

テーマとしては、「果たして参考資料として、また、引用の出典として、ネットはそうも印刷物に劣るのか」ってことでありまして、私は、ネットに出ている文章を参考資料として使用したり、そこから引用することを無条件に否定することほどバカげていることはないと考えます。

そこからさらに「どうしてパクリが生ずるのか」の仮説を展開していくのですが、あとは省略。

< <<<<<<<<<マッツ・ザ・ワールド 第1638号>>>>>>>>>>

< パクリのリスク30>

以前からの購読者はご存知のように、今年の頭までは各新聞社のニュースサイトをほとんど毎日チェックしてました。ワシに社会問題を論じさせると、ちゃんと他の人が気づかない視点を見出すと自負しているのですが、いくら「マツワル」に書いても世間からは相手にされるはずがなく、どうでもいい見方ばかりが世の中に溢れている現実を前に、タイムリーな社会問題から撤退しました、

それ以降、生身の私は選挙というタイムリーな社会ネタに没頭しつつ、ニュースはほとんどチェックしなくなりました。「パクリのリスク」で取りあげているニュースも、たまにまとめて「著作権」で検索して見つけたものです。

それでいいと思っているのですが、あまりに世事に疎くなっていることをつくづく実感することがありました。私の興味のあるジャンルであるにもかかわらず。

先週、「東村山セクハラ捏造事件」の取材を受けました。「東村山セクハラ捏造事件」はタイムリーな社会問題と言えなくもないですが、社会的に着目されているかどうかは私にとっては問題ではありません。実際そんなに広く話題になっているわけではないでしょう。その時に、雑談の中で、唐沢俊一について聞かれました。唐沢俊一著『新・UFO入門』という新書を見せられたのですが、この本の存在も知らず、まして、これに関して何があったのかこれっぽっちも知らないので、コメントできず。

うちに帰って調べたら、パクリが問題になっていたのですね。

元ネタ自体がもっぱら要約ですから、「要約の著作権を主張できるのかどうか」「法的な意味での著作権侵害か否か」といった問題はあるのですが、「要約の著作権を主張するのは無理」「法的な意味での著作権侵害とは言えない」ということだとしてもなお物書きのモラルに照らせば「やってはならないパクリ」と断じていいでしょう。他人が労力を費やしたことに対して、なんの敬意もなくかっぱらったってことですので。

これについて調べていたら、よりによって同時期に、幻冬舎の別のパクリ本が騒ぎになっていたのですね。こちらです。

日垣隆です。これまたまったく知らないでいました。

こちらもやってはならないパクリと言っていい。唐沢俊一がパクリをやらかすのは理解できるとして、日垣隆は意外な気もします。人間として信頼できるかどうか、書き手として面白いかどうかといった評価とは別に、そういうところはキッチリとしてそうな印象があるものですから。

ここまで時間がたっぷりあったため、ネットに数々の意見が出ていて、私がその上言うべきことはなく、よりこのふたつの事例について考えたい人は、それらの意見を参考にしていただくとして、ここではチンケなパクリ事例からちょっと離れて、「それはどうなんか」と思ったことを書いておきます。

そもそも私がこの件について知るきっかけになった取材の際に来ていた人物が、問題の箇所以外で、『新・UFO入門』にウィキペディアからの引用があることを批判していたのですね。

印刷物がネットから引用すること自体を彼は批判、これに対して私ははっきりとした自信がもてないままに反論しました。この時はきれいに考えがまとまっていなかったのですが、うちに帰って、唐沢俊一のパクリについて竹熊健太郎が書いている文章を読んだら、ここに、ほとんど同じ主張が述べられていました。

同意できる部分もありつつ、「違うと思うぞ」という部分もあったので、改めて整理して、この一文に沿って、私の意見を書いておきます。

この文章には、ふたつの問題が混在してます。ひとつは今回問題になっている著作権侵害です。【「引用」するにも出典を書いたうえで、そこに「独自の見解」を加えるなどして発表するだろう。それなら何の問題にもならない】ってことであり、唐沢俊一も日垣隆も、それをやらなかったからパクリだと批判されたわけです。ここは私も異論はないし、ほとんどの人が同意するでしょう。

【それが許される範囲の模倣か、許されない模倣かは慎重に判断していただきたい】という意見にも同意します。以前書いたように、違法行為としてのパクリなのか、モラル違反としてのパクリなのかをしっかり区別する必要がありましょう。それぞれに伴った対応があってしかるべきですから。

その区別をつけないまま、無闇に糾弾を加速していく人たちにも、「法的な著作権侵害ではない」という一点でそれに対抗しようとする人たちに私は汲みしない。

続いて、以下に書かれているのは、ルールに則った引用をすればいいという話とはまた別で、情報の信頼度の問題であり、ルールに則った引用をしたところで、ネットからの引用は適切ではないって指摘です。

—————————————————————-

 これは私にとっても同様で、たとえばこのコラムにしても、ネタ決めや関連資料を探す際、ネットをおおいに活用させてもらっている。ただし注意が必要だ。ネット内のデータには出典なく引用・孫引きされたものが多く、プロが校閲することもないので間違いが多い。また個人サイトの多くは本名も住所もわからず、気まぐれでサイトそのものが消滅してしまうことはしょっちゅうである。

 したがって出典を明記しなければならない引用にネットは不向きであり、正確を期する原稿の場合、出版責任が明確な新聞・雑誌・書籍から引用する必要がある。古い本の場合は、面倒でも図書館を使うことになるだろう。

—————————————————————-

著作権侵害の問題とは違い、こっちの問題はそう簡単には割り切れそうにありません。

「マツワル」でも繰り返し具体例を出して指摘してきたように、【ネット内のデータには出典なく引用・孫引きされたものが多く、プロが校閲することもないので間違いが多い】というのはまったくもってその通り。

あるサイトに出ていた話、しかも間違っているとしか思えない話をまんまコピペして、なおかつ出典を示さず、自分で見てきたかのように、あるいは自分で考えたかのように処理している人たちがいくらでもいます。

したがって、それを使用する場合は注意が必要です。その上で、怪しければ使わないか、「これは怪しい。裏がとれない情報である」と一文を添えればいいことです。そういう情報であることを前提に読者が読むだけの話。

「これはコピペだろ」と気づいた時にはその旨を指摘しておけばいい。実際、私がそうしているように、ネットにおいては、コピペであることを発見しやすい。検索すればいいだけですから。「裏もとらずにコピペしてんじゃねえよ」と皆が指摘するようになれば、自然とルールは浸透するだけのこと。

ネットでは出典が消えやすい現実はあるにしても、それは市場から印刷物が消えてしまうことと重ねられる問題です。それを保存しているのが図書館ということになりますが、図書館に匹敵する機能をすでにネットはもっています。

もちろん、アップして1時間後に消した文章はどこにも保存されていない可能性がありますが、アップして1時間後に消した文章を引用することはあまりないのですし、ミニコミや私家本だって図書館に保存されていない可能性があるのですから、どっこいでしょう。

私自身、引用する場合、消えてしまうことを見越して、自分で前後の文章を保存することがあります。この竹熊健太郎の文章も全文保存しました。そういう作業をやることは容易ですから、消えるのが怖ければ、保存すればいい。それでは解決しない問題もなおあるにせよ、解決できる問題もあるのですから、そうしましょうよって話です。

また、ネットは書き手の責任をとらせにくいという事情もたしかにあります。印刷物においては、「どこの誰兵衛が書いたものである」ということが探りやすく、その属性によって中身の判断がしやすく、なおかつそこに間違いがあれば、責任をとらせることができます。対してネットでは、印刷物ほど容易には書き手を特定できない。

しかし、カストリ雑誌に書かれた文章を誰が書いているのかなんてわかるはずがないことは、「松沢式売春史」をお読みになっていただければわかることです。出版社でさえもう存在せず、問い合わせることもできない。

にもかかわらず、私はそれらの記事から引用して、なにがしかのことを語っています。「この記事はおそらく創作」「この記事は戦後のものではなく、戦前のものを転載したのだろう」「この記事はどうも伝聞のよう」といった分析を加えて提示する。書き手の属性などわからなくても、我々は文章を評価できるのですし、かえって属性によって目くらましされることもあって、そんなもんはない方がいいとも言えます。

にもかかわらず、【出典を明記しなければならない引用にネットは不向きであり、正確を期する原稿の場合、出版責任が明確な新聞・雑誌・書籍から引用する必要がある】とするのはあまりに乱暴です。単に乱暴なだけでなく、この発想こそが無責任なパクリを誘導することになりかねないとも感じます(続く)。

< <<<<<<<<<マッツ・ザ・ワールド 第1638号>>>>>>>>>>