2009-04-30

お部屋1834/サンクチュアリ出版は潰れてよし

3日ほど前までは「このままサンクチュアリ出版は売り逃げしそうだな」と思っていたのですが、誰も予想しなかった中村克さんの大活躍によって、見事形勢が逆転しそうです。ある種の天才かもしれない。

瀬戸弘幸一派もそうですが、味方にするとこれほど怖い存在はおらず、敵に回すとこれほど心強い存在はいません。

そろそろ社団法人「小さな親切」運動本部の記者会見が始まります。

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2009年04月28日
プレス発表を行ないます

4月20日付、読売新聞掲載記事「最後のパレード」はがきキャンペーン作品盗用疑惑について、社団法人「小さな親切」運動本部では、プレス発表を行ないます。
と き 2009年4月30日(木) 午後4時
ところ 文部科学省記者クラブ
プレス発表の内容につきましては、4月30日以降ホームページで発表いたします。

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わざわざ記者会見をするからには、もはや穏便に済ます気はないってことだろうと推測できます。楽しみです。

社団法人「小さな親切」運動本部はすでに回収を求めていますが、サンクチュアリ出版は「回収は難しい」と回答。会社が潰れるためでしょう。1日でも回収を遅らせて、少しでも売りたいというのが本音だと思われます。それで不利になるとしても、回収を避けるための策を弄する以外になかったのでしょう。

しかし、サンクチュアリ出版が潰れるのはやむを得ないです。それによって他の本の著者が印税をもらえなくなったり、本に作品を提供したイラストレーターやカメラマンがギャラをもらえなくなったり、印刷所へ代金が焦げ付くことには同情しますけど、この際、パクリをやってはいけないことを知らしめるために、潰れた方がいいとさえ思います。あそこまで悪質な出版社が生き延びるのは、出版界にとっても社会全体にとってもいいことは何もないでしょう。

盗作本を売り続ける書店、こうなってもなお何もなかったかのような礼賛レビューを書いている人たち、かつてブログに書いた礼賛文をそのままにしている人たちを見るにつけ、つくづくそう思います。

こーんなに面白い話なのに、また、出版関係者としては黙過してはならないはずの話なのに、編集者なりライターなりで、この問題をネットで書いている人の数は決して多くはない。もちろん、それぞれにテーマがありますし、タイミングというものもありますから、誰もが触れなきゃいけないはずはないですが、それにしても、ブログ等で触れている編集者やライターが少ないのは、やはり著作権意識が薄いためだと想像でき、著作権意識がないなどと中国を批判する資格はない。

出版関係者であっても、「そもそも著作権に興味がない」「興味はあっても知識がない」というのが過半数でしょう。だから触れないし、触れられない。「そんなバカな」と思う方もいらっしゃいましょうが、これが現実です。だから、似たような問題が次から次に起きてしまいます。今回ほどひどい例はまずないとは言え。

ちょっと前にも雑誌の編集長から、ある企画に関する相談がありました。そんなに難しい話ではなく、基礎の基礎であって、「そんなことが許されるなら、とっくにみんなやって商売しているよ」というレベルの内容です。その編集者も薄々はNGだろうと思っていたようですが、はっきり「それは著作権侵害である」とまで言えるほどの自信はなかったようです。だから、相談してきたわけで。もちろん、ボツにしたはずです。

もう十数年前のことですが、単なる法律の解説書ではなく、例えば著作権者が不明の著作物を使用する場合は、著作権法に従っていると本が出せなくなるので、「法律には反していても、誰も不快な思いはしないので、これこれこういう方法をとればいい」といったガイドをする本の企画を出版社に出しました。順調に話は進んだのですが、最終段階で社長がNGを出しました。「著作権の基準を明確にすると、自分たちが著作権侵害をした場合に都合が悪い」というのがその理由。

皆さんご存知の出版社でありまして、これまでに何度は著作権侵害で問題を起こしていますから、さもありなんという話です。ここに限らず、文芸系が強い出版社は、できるだけなあなあにしておきたいみたいです。小説家はパクリをやっているのが多いですから。

こんなもんです、出版界。出版社によっては新入社員に著作権に関するレクチャーをするのですが、実務をやる前に教えても身に付かないでしょう。それでもやらないよりやった方がよく、それさえやらない出版社の方がずっと多いものです。

原文が見当たらなかったのですが、以前、竹熊健太郎氏が、「引用と転載の違いを正しく説明できる出版関係者は極一部」といった話をブログ「たけくまメモ」に書いてました。あいまいに理解できていたとしても、正しく説明できる人は確かに少数になるのかもしれません。だからこそ、いまなお「無断引用」なる言葉が流通してしまってます。

なお、私が最初にこの言葉のおかしさを指摘しているのを見たのは、10年以上前に読んだ豊田きいち氏の著書でした。その頃よりは減っていると思いますが、今なおこうも使い続ける人たちがいるのですから、出版界の現状が透けて見えるってものです。

こういう現状を変えるためには、「パクリで潰れた出版社もある」という事実を残した方がよく、そうなれば、サンクチュアリ出版も社会に貢献できるというものです。

このエントリへの反応

  1. こちらではないでしょうか?>竹熊氏

    http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20060905/109266/

  2. かわさきさま

    ありがとうございます。でも、これではなくて、自分の文章の中で同様のことを書いていたと記憶します。どれでもいいんですけど。

    「昔だったら20人に1人ぐらい」ということは今だったら「10人に1人か2人」ってところでしょうか。出版社や編集部にもよりますけど、全体で言えばこんなもんかなと私も思います。

  3. [...] 『最後のパレード』盗用騒ぎについてブログなどで触れているライターが少ないのは、前回書いたこと以外に、「出版社に対する遠慮」もありそうです。こういう「遠慮」「配慮」についてはまた項を改めて書く予定ですが、橋本さんは、サンクチュアリ出版のような出版社で仕事をする気はさらさらないでしょう。こういう気概のある書き手がいかに少ないかってことです。 [...]

  4. [...] すでに書いたように、出版界にも著作権のことをよくわかっていない人たちがいくらでもいますから、著作権について、間違ったことを語ってしまうことはあるでしょう。他のジャンルについても間違ったことを書いてしまうこと、言ってしまうことは誰にでもあります。それだけなら、よくあることで済ませられるかもしれない。しかし、唐沢俊一の場合はそうはいかない。 [...]

  5. [...] 売れるんだったら、パクリがあろうが、ガセがあろうが、kensyouhanさんに何を言われようが、出す版元はあるでしょう。全部パクリでも出す出版社があって、それでも売り逃げできるのが、出版界の現状であります。出版界の惨状と言いますか。 [...]

  6. なんの背景も知らず、今日、6冊購入しました。
    自分に必要なエッセンスだと感じたので。
    なんども読み返すとおもいます。