世界では、グリーン革命がまっしぐらに進行中だ。
 いっぽう日本は、その動きから取り残されている。なぜ日本は、動きが鈍いのだろう。欧米や中国は、なぜグリーン革命に真剣に取り組んでいるのだろう。
 グリーン革命は、今後10年、20年後に巨大な変化を引き起こす。その本質やそれをとりまく各国の思惑を理解しないと、日本も、日本企業も、この巨大な変化から取り残されることになる。
 グリーン革命と聞くと、日本人は「エコもいいけど経済はどうなる」と反射的に思ってしまう。1980年代に経済大国となって、現状維持、既得権重視に陥った日本は、未来を切り拓けず、成長産業への投資を怠ってきた。その結果が「失われた20年」だ。
 グリーン革命は、炭酸ガスの排出を目標値におさえこみ、地球環境を守ることを目的とする。それは、社会・経済や雇用にも、政治にも、軍事・外交・安全保障にも、大きな影響力を及ぼす。グリーン革命は、21 世紀の国際社会を支配するフレームとなる。

 グリーン革命を、国内事情でとらえてはいけない。
 日本には砂漠がないからと、太陽熱発電は、経産省の新技術のリストにすら載っていない。だが、欧米では、太陽熱発電はもっとも有望なプロジェクトとされている。EUはサハラ砂漠に太陽熱発電所を数多く建設し、高圧直流送電して電力の25%をまかなうため、52兆円を投資する計画である。このプロジェクトは、EUの産業構造、そして中東の国際環境を激変させるだろう。アメリカも西部の砂漠地帯に、太陽熱発電所を建設し、スマートグリッドで結ぶ計画だ。
 砂漠のない日本で、真剣に考えなければならないのは、地熱発電だ。原発と競合するという理由で、経産省が軽視しているのはおかしい。
 太陽熱や地熱など再生可能エネルギー発電の普及は、たとえば自動車産業を直撃する。電気自動車が普及するからだ。電気自動車は、部品の少ない組み立て産業で、途上国にも立地が可能。従来型の自動車メジャー(GM、トヨタ)は、やがて存在しなくなる。
 製鉄会社も、CCSをいち早く採り入れ炭酸ガス排出を劇的に削減しないかぎり、日本から消滅してしまうだろう。
 日本は、自動車や製鉄に代わる新産業を構想し、それに投資し、しっかり育てていくことが大切なのだ。

 アメリカや中国が、EUの提案する温暖化対策に後ろ向きだから、日本も様子を見ようなどと考えてはならない。
 アメリカや中国は、それぞれグリーン革命を主導する長期戦略を練っている。政治的な駆け引きで、EUに主導権を奪われたくないだけだ。本書は、アメリカ議会での法案を紹介し、その進んだ発想と内容に注意をうながす。また中国の事情にもページを割く。中国は現在50億トンあまりの炭酸ガスを排出し世界一だが、これが20年後には倍増する勢いである。そこで、中国の炭酸ガス排出を削減する国際協力を日本が提案すれば、大きな経済的メリット、外交的メリットを両国に生み出すことができる。こうした情勢を、日本政府や企業が理解して行動することが大切だ。

 本企画では、世界で進行するグリーン革命の本質を理解するために、アメリカやイギリスのグリーン革命の根幹となっている法案から、排出権取引制度、太陽熱発電、地熱と水力、電気自動車とスマートグリッドなどの実態までを、それぞれの一次資料に当たりながら解説する。これからの10年、20年で起きるだろう変化を踏まえ、国際的な舞台(外交であれビジネスであれ)で交渉する場合に必須の基礎データとして、また、相手の戦略と発想をしるためのソースとして、必携の1冊となるだろう。
(橋爪大三郎 2010.●.●)

目次

執筆者一覧

炭素研究会
橋爪大三郎/東京工業大学教授、世界文明センター副センター長
池田和弘/東京大学大学院博士課程(社会学)、世界文明センターフェロー
野澤聡/科学史研究者、学術博士、世界文明センターフェロー
鈴木政史/関西大学准教授、世界文明センターフェロー
品田知美/社会学者、世界文明センターフェロー
長山浩章/京都大学教授、世界文明センターフェロー