当ブログの書き手である石田豊(享年54歳)は、2009年6月20日午前2時30分、逝去いたしました。 生前の皆様の御厚誼を深謝し、謹んでここに報告致します。
(ポット出版)

2009-05-03

[007]車椅子を買った

車椅子を買った。

無謀とお思いでしょう。自分でもそう思わなくもない。

前にも言ったと思うが、現在、ぼくの「症状」としては、肥大した患部のあっちこっちが神経を圧迫したりするもので、そこが痛い、ということがある(というか、それしか自覚症状はない)。

もちろんこの痛みの原因になっているものにたいして、現在戦いを繰り広げているわけだから、早晩、個々の痛みは消えていくはずだ。そうなってもらわないと困る。

従って、これからのぼくと痛みの関係は、場所を替え出現する新たな痛み部位を叩き続けていく、ということになるのだろう。

痛みそのものに関しては、痛み止めが進化しているために、うまくやると、ほぼ日常生活に影響がない程度まで押さえ込める。しかし、タイミングによっては、かなり痛い時間を、どうしても耐えなければならないはめに陥る。

痛みの部位はいくつもあるし、その順位は入れ替わったりするんだけど、今現在の時点でのポールポジションの常連は、右臀部から太ももにかけて、である。じっとしていると薬の影響もあって、どってことないのだが、5分も歩くと、かなりの激痛にうずいてしまうことがある(あくまでも「ことがある」なんだよね。痛くないときもある)。であるから、なるべく動くのを控えてしまう。それが運動不足を引き起こし、痛みを増やす方向に悪循環しているんじゃないか、と思うのだ。これは想定外であった。

散歩に出たい。買い物にも行きたい。

短時間なら、ほとんどはなんてことなく楽しめる。しかし、時によっては例の痛みが突然やってくることがある。それはあらかじめ想定できない。イキナリ、なのだ。歩いていると、いきなりケツが痛くなってくる。不機嫌になって、痛みに耐えながら、ほうほうのていでベッドに戻ってこなければならない。そこで痛い部分をあたためてじっとしていると、通常に戻る。こういうケースがあると、ついつい外出にためらうことになる。それはずいぶん残念なことだった。

先日、思いついて病院の車椅子を借りて散歩にでかけた。万一少しでも痛くなったら、椅子に座って体重をかけないようにして戻ってこようという作戦である。うまくいきましたねえ。ばっちり。なにより、準備万端整っているゾ。どっからでもかかってきやがれ、と、自信満々でいられるところがうれしい。

車椅子購入には、このような前提があった。

しかし、そうだからといって、ほんとに買うの? って話でもある。

だって、現在の臀部の痛みはいつまでも続かないであろう。そのために治療しているわけだし、続いてもらうと困る。たとえば、中枢神経がどうこうとか、で、運動系に回復不可能な障害があるわけではない。いま、車椅子があればいいなあと思うのは、あくまでも実に一時的な話なのである。

でも。先日の車椅子散歩は甘美であった。

いいなあ。車椅子。

で、いったいぜんたい、車椅子っていくらくらいするんだ? 調べてみて驚いた。2万円でお釣りがくるのだ。安いよ。感覚的には「1回でモトが取れる」とまで心の中で口走ったほどである。

マンション暮らしなどで収納スペースがない場合は別にして、ガレージがあるとか、ちょっと無駄な場所があるような住まいに暮らしているなら(つまりウチね)、こういうのは買っておいてもいいのではないか。そう思った。もちろんぼくは早晩回復する。そうなっても、年々年はとるわけだし、遊びにきた誰かがあやまって足に怪我してしまう、なんてことがおこらないとも限らないから、備えておいて、ソンはない。

いろんなタイプを比較検討した。条件として重視したのが、背が折れることにより、折りたたみが小さくなり、タクシーのトランクに入るように設計されていることと、介助者(押してくれるだれか)が持つハンドルにもブレーキがついている(最安価のものはついていない)、の2点。これで税送料込みで21,280円。

さっそく外出許可をもらって試してみたが、とても快適。正直いって、いささかヤスモノくさい動きをする(全体がタイトじゃない)が、気になるほどでもない。ぼくの場合、あくまでも非常用なのだ。べつに自力で立ち上がれるし、歩きもできる。これくらいで十分。

大げさな言い方になるかもしれないが、呪詛から解き放たれたプロメテウス! って感じ。イイゾ。