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[第2章●強靱なリファレンス環境の探求]
5… 電子辞書をフォーマット別に分類すると
[2004.04.14登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

電子辞書専用機の売れ行きは昨今かなりのもののようです。しかし、コンピュータを使って閲覧する電子辞書(をこの連載では「電子辞書」と呼んでいます)は、なかなか苦戦の模様。

電子辞書はなぜあまり普及しないのでしょうか。

それにはいくつかの理由が考えられます。
1) 辞書は有償で、かつ、ある程度高額(数千円から)であること
2) パソコン誌などではほとんど取り上げないこと
3) 版元による広告宣伝活動もほとんど行われていないこと
4) 1つ2つの辞書を「ためしに」使ってみても、効果が実感できないこと

このうち最大のネックは(4)です。(1)から(3)までについては、わたしが説得することができる。(4)がモトで電子辞書は使えないと思った方に対しては、説得が難しい。前回にも述べたように、

「そうかなあ、ぼく、使っているけど、あまり意味ないよ」

と経験談からの反論が返ってきます。経験に基づく反論ってのが、いちばん論破しにくいのですね。何事に関しても。

電子辞書は、ひとつふたつの辞書を使っているだけでは、その効果を実感するには至らないと思います。いくつかの、しかも重量級の辞書をまとめて検索して一気に結果を見ることができてはじめて、その効果の大きさを実感できるというのが、わたしの考えです。たとえば前回掲載した図版(クリックすると拡大します)

複数辞書をひとつの検索語を入れることで一気に検索することを「串刺し検索」といいます。

串刺し検索を行うためには、とうぜん、複数の辞書をあらかじめ用意しておかなければなりません。また電子辞書には検索用のソフトが付属しているのですが、付属のソフトには串刺し検索の機能はありません。つまり複数の電子辞書のみならず、ソフトも別途用意しなければなりません(ただし、後述の通りWindows用の検索ソフトはフリーウエア)。2重の意味でハードルがあるわけです。

そういう理由(?)で普及がイマイチな電子辞書ですが、ホントのところは効果抜群です。

「Googleがあるから、べつに辞書はいらないや。ググれば検索はタダだし」

しかし、Webサイトは玉石混淆。正確で深い記述も数多く存在しますが、逆に間違いとかウソもある。利用者はそれを見抜く眼力が必要になります。それに、たいていはドババと検索結果が出てきて、見比べていくだけでも時間がかかります。

何も、辞書はカンペキと言っているわけではありません。有名な辞書でも間違いもあれば、舌っ足らずな記述もあるでしょう。しかし、専門家が時間を掛けて作ってカネを取って売っているのですから、信頼度はまるっきり違います。なにより「結果が1件」ですからソクソクと調べられる。しかも私が推奨している複数辞書串刺し検索では、辞書の記述相互を比較することで、より信頼度を高めることができます。

前回書いたように、辞書だけで検索が終わらない場合も少なくありません。しかし、Googleの旅に出かける前に「権威のある出発点」が与えられていると、調べものの質もうんと違ってきます。言うまでもないかもしれませんが、辞書に載っていないということもまたひとつの重要な情報になります。

もちろん、インターネットが使えない状況でも、辞書はイキています。AirH"のような無線でのアクセス手段を持っていない私としてはこれはとても助かります。

「でも、電子辞書専用機の方が値段も安いし、持ち運びも便利じゃない? どうせ買うなら、そっちの方がいいかも」

たしかに。電子辞書は売れ筋商品・戦略商品ということもあってか、価格が安い。たとえば収録辞書の点でほぼ最高峰というべきセイコーのSR-T7000という機種は、ジーニアス英和大辞典、リーダーズ英和辞典 第2版+リーダーズ・プラス、コンサイスオックスフォード英英辞典 第10版+オックスフォード現代英英辞典 第6版+コンサイスオックスフォード類語辞典 第2版+オックスフォード連語辞典、新和英中辞典 第5版、広辞苑 第五版、漢字源 JIS 漢字版など(あとのはオマケと考えていいでしょう。使い道的に見て)という強烈なコンテンツを持って、標準価格\54,600ですが、電子辞書(ソフト)だけを単体で買っても57000円以上になります。しかもこれは定価ベースの比較です。実売は電子辞書はせいぜい1割引にしかなりませんが、たとえばヨドバシカメラ価格だとSR-T7000は¥36,540で売られています。Amazonだと29190円。もっと安いところもあるでしょう。

値段だけで言えば、圧倒的に専用機が安いのです。

しかもそのうえ、持ち運びはウンとラク。なにしろ電池込みで210グラムです。これも機種によってはもっと軽いものもある。

しかし、私はそれを推さない。理由はいくつかあります。
1) 拡張性がない
2) コピペができない

「拡張性」とは、「他の辞書を追加できない」ということです。SR-7000は重量級の辞書をもっともたくさん収録している機器ではありますが、実際に電子辞書をシゴトで使い始めるとわかることですが、それでもやはり不満が出てきます。別の辞書も欲しくなってくるのです。専用機ではそれができない。

最近ではソニーやシャープから辞書が追加できる専用機も発売されるようになりましたが、これでもやはり限界が出てきます。専用機はどうしても拡張性にかけるのです。

「使い方の要諦は串刺し検索」というリロンは「同種またが類似の辞書を引き比べる」ということを必然的に含んでいます。英和辞典は○○があるからいいや、というのではなく、複数の英和辞典を引き比べ、どちらの語釈をも読み比べることで、立体的な意味がつかみやすくなる、という考え方です。

辞書は高価ですから、一気にたくさんを買いそろえることはできませんが、数年掛けてぼちぼち増やしていくようにすると、よりパワフルな辞書環境が構築できます。専用機ではその道が閉ざされている。

学生やご隠居は別ですが、デスクワーカーにとって、辞書を引くニーズは、ほとんどがシゴトの過程で出てきます。つまりコンピュータ画面に向かっている時に出てくるのです。専用機の持つ可搬性というメリットは、デスクワーカーにとっては二次的な長所ではないでしょうか。余裕があったら、別途購入してもよい。そういう性格のものだ、と私は考えています。

そして、もひとつの理由。「コピペができない」。

電子辞書はコンピュータで使いますから、辞書の本文を必要に応じてコピペすることができます。書いている文章の中に、たとえば「広辞苑によると……」という具合に引用することもカンタンですし、一連の検索結果をまとめて「抜き書きファイル」を作ることもできます。辞書で引いたこともすぐ忘れちまいます。同じ語をなんども引かなきゃならないことはありませんか。長めの文章を書いている際などは、関連語句の検索結果を抜き書きしておくととても便利です。

逆に文書ファイルから辞書の検索欄へのコピペもできます。Web文書や他人が書いたドキュメントの中に意味がわからない語句があれば、その語をコピーして、検索欄にペースト。スムーズに意味を調べることができます。

表記型検索(後述)が可能な辞書なら、読めない熟語でもそのまま検索できます。紙の辞書はもちろん、電子辞書専用機でもこういうことはできません。これぞ、電子辞書って感じ。

前にも書きましたが、現代のデスクワーカーのシゴトの大部分は、コンピュータの画面に向かって行われています。私なんどはライターですからともかくとしても、カタギのお仕事でも、報告書、企画書を書く、メールを読み、書く、Webを見る、メモを取る、Excelでデータを分析するなど、作業のコア部分はモニタ越しに行っているのが普通になってきました。

電子辞書は、その環境の中にすっぽり取り込めます。同じモニタ、同じキーボードを通じて辞書の機能が追加されるのです。これもまた専用機との大きな違いです。もしかしたら、このことが最大のポイントであるかもしれません。

さて、電子辞書と一口にいっても、いろんな種類があります。分類の仕方もさまざま考えられますが、もっとも重要な分類方法は、データの形式に着目するものです。

電子辞書のデータ形式は
●独自フォーマット
●規格フォーマット
に大別できます。「独自フォーマット」とは、その辞書独自のデータ形式の辞書で、検索には専用のソフト(辞書に付属している)を使います。つまり辞書データと検索ソフトが一体化しているわけで、その辞書を使う上では、機能の隅々まで使えるというメリットがある反面、検索ソフトになじめない場合は使い物にならないという欠点もあります。そもそも独自の検索ソフトを使うということから、われわれの標榜する「串刺し検索」は、本義的に実現しえないところが致命傷です(ただし、一部の独自フォーマットは、規格フォーマットに加工するなどして、串刺し検索もできるようになります。後述します)。

「規格フォーマット」とは、辞書データをどのように持つべきかという規格があり、それに基づいて辞書データが作られているものをいいます。辞書データを買うと検索ソフトもオマケでついてきますが、何もそれを使う必要はなく、その規格が読める検索ソフトなら、どのソフトからも利用することができます。

独自フォーマットは検索ソフトとセットです。つまり、プラットフォームが限定されるということです。独自フォーマットの電子辞書はWindows用、Mac用などとして販売されています(ハイブリッドといって、そのどちらでも使えるものもあります)。Windows用(あるいはMac用)といっていても、それは「現時点」での話であって、今後ともずっとWindowsで(あるいはMacで)問題なく使えるか、といえばそんな保証はありません。OSがバージョンアップすれば使えなくなる可能性もあります。だいたい、今後もずっとWindows(Mac)を使い続けるなんてことを断言する勇気は、少なくとも私にはありません。辞書(データ)の命はOSの有効寿命より長い、と思います。規格フォーマットは、規格でありますから、同じデータをMacでもWindowsでもUnixでも使えます。未来のことはわかりませんが、おそらくどのようなOSが出てきても、そのOS用の検索ソフトは登場してくる可能性はきわめて高いと考えられます。

その点からも、独自フォーマットの電子辞書を購入する際には注意、あるいは覚悟が必要です。両方のチョイスがあるなら、規格フォーマットのものを求めるのが正解でしょう。

規格フォーマットといっても、ひとつの規格にまとめられているわけではありません。有力なところでは、ソニーが中心になって策定した「電子ブック」(EB)と、富士通が肝いりの「EPWING」があります。

電子ブックは8cmのCD-ROMが専用キャディに入った形で提供されているもので、本来は「データディスクマン」という専用読み取りハードウエアとの組み合わせで使うことを前提にした規格です。発表当時は現在のように電子辞書専用機なんてもんはなかったわけで、大型辞書が持ち運びできるという大きなメリットがあり、一時は300タイトルほど(記憶ですんで不正確かも)のコンテンツが売られていましたが、いまや廃れに廃れて90タイトル強にまで落ち込んでいます。

データディスクマンはCD-ROMという回転するメディアを使うため、回転しないメモリ素子にデータを持つ電子辞書専用機には、スピードの点でも、コストの点でも、重量の点でも太刀打ちすることはもともと不可能です。そういうことから、今日の衰退が始まったのでしょう。

ただ、この8cmCD-ROMはキャディから取り出すことが可能で、取り出してしまえば、コンピュータのCDドライブで読んで、ハードディスクにまるごとコピーすることができます。ハードディスクに入れてしまえば、EPWINGと同様に使うことができるので、われわれのニーズでは、なんら問題のあるものではありません。

かえって、メリットもあります。同じ辞書コンテンツで電子ブック版とEPWING版の両方がある場合、電子ブック版の方が安価です。機能を比較すると、図版がカラーでなかったり、音声データが入っていなかったりの違いがある場合もありますが、実用上(少なくとも私は)なんら困ることはありません。

たとえば研究社の「リーダーズ英和+リーダーズ・プラス」はEPWING版では20,000円しますが、電子ブック版では12,500円です。岩波の「広辞苑第5版」はEPWING版で11,000円、電子ブック版8,000円です。

こういうコンテンツの場合、私ならためらわず電子ブック版を購入します。デフォルトでは電子ブックは「表記型検索」(後述)ができないという致命傷がありますが、これも変換ソフトを使えばなんとかなる。安いが勝ちです。

また、稀ではありますが、電子ブックにはあるけど、EPWINGにはないというコンテンツもあって、そういう辞書が欲しい場合、どうしても電子ブックにするしかありません。

こういう観点から、電子ブックもまた視野の中に入れておくのがよろしいか、と。

なお、電子ブックのタイトルは「電子ブックライブラリー(タイトル一覧)」で一覧できます。

一方のEPWINGはもともとコンピュータで使用することを前提にした規格で、こちらの方は通常のCD-ROMでの提供です。電子辞書専用機とも使い道の上での競合もなく、安泰といえば安泰。ますますタイトルも増えています。ただ、けっこう古い規格(1989年)がベースなので、今後、どうなっていくかはわかりません。ま、どうなったところで、ここまで来たら、閲覧ソフトの供給に将来的な不安はまずないと思いますが。

これもデータをハードディスクにコピーして使うことができます。つまり複数辞書を串刺しで検索することが可能です。

EPWINGのタイトル一覧は「EPWING商品紹介」にあります。

電子辞書計画をお考えなら、EPWINGないし電子ブックのタイトルを中心に据え、それに独自フォーマットものを慎重に追加していくという戦略が有効だと思います。

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