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[第15章●その他よしなしごと]
2… ただいま禁煙中
[2004.12.01登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

禁煙している。

意思が弱いというより、ほとんど意思なるものを持たないぼくのことゆえ、近々にザセツすることになるだろうが、おどろくべし、すでに10日が経過した。

禁煙に踏み切った直接のきっかけは母親との電話での口論だった。人間ドックの検査結果で循環器系の数値に異常があり、再検査とされているのを放置していることを、うっかり彼女が白状した。しかも2年連続で要再検査と宣告されていたという。

息子としてはイカりますわな。なんで黙っていたのか、なんで放置しているのか、と。ちゃんと検査へ行けと勧告しますわな。それに対するおふくろの返答は「自分のことは自分がいちばんよくわかっている。変調はなにも感じないし、現に2年連続して同じ程度の数値、つまりよくもなってないかわりに悪くもなっていない。このまま様子をみることにしている」というものであった。それなりにロジカルではある。しかし、要するにこれは方便であって、実のところは検査が怖いのだ。病院が嫌いなのだ。

しつこく再検査にいくことを強要する息子に対して、おふくろは自分のことは自分で決めたいという自己決定論を持ち出してくる。ほっといてくれ、自分でこれでいいと思っているんだからというわけだ。それに対抗してこちらが繰り出す論理は、煎じ詰めると、あんたが検査をうけないと、こっちが困る。シンパイであるし、後からごちゃごちゃ悔やむのもいやだ。こっちのために受けてはくれないか、というもの。

するとテキはいきなりぼくの喫煙習慣のことを持ち出してきたんですね。「わたしはおまえの健康を心配して、何十年にもわたってタバコをやめるようにと頼んできたではないか。それを今までずっと無視しておいて、いまさら心配しているから検査を受けよという資格があるのか」。

売り言葉に買い言葉でタバコなんてやめてやらあ、ということにあいなった。どうも先方の作戦がちであったような気がしないでもない。全体が謀略か?

もともとタバコをやめる気なんか、さらさらなかった。喫煙習慣への愛着ということもあるけれど、世を挙げての嫌煙・反煙風潮が心底ヤだったからである。みんながみんなそうだとはいわないが、なんだか窮屈で高圧的なものいいに反感を感じていた。そりゃ副流煙とかであなたの健康にダメージを与えているかもしれない。でもそれだったらあらゆる自動車が排出しているガスはどうなんだ。それにも赤目吊って反対していただきたいもんだ。なんだか、聖戦の戦士みたい。こうした風潮に対し、よし、上等じゃないか、だったら最後の喫煙者になっちゃる。ま、意地張っていたんですね。

そんな感じで生きてきたもんだから、禁煙なんてイベントはありえないと思っていた。しかし、禁煙への引き金がおふくろとの口論だけであったかというと、そうでもない。伏線はあった。

数年前から歯周病で苦しんでいる。歯周病には喫煙が悪いらしい。医者から禁煙を示唆されていた。ドライアイにも苦しんでいるんだけど、目医者でもらったドライアイ対策のパンフレットにも、原因のひとつに加齢と並んで喫煙がリストしてある。副鼻腔炎も同じ。

ぼくはひ弱、病弱に見えるかもしれないが、それは擬態であって、実はかなり頑健である。寝込んだりすることはほとんどないし、医者とも無縁の日常を長いこと送ってきた。それがここんところ急にそんなていたらくでしょ。さすがになんだかなーっと思っていたんすよね。

そういう伏線もなくはなかったので、フェイントかけられて血迷いごとを口走ったあとも、ま、これはひとつの流れであるかも、と。そうだとしたら、キンエンというのもひとつのオモロい経験であるか、とも。

先に書いたように、意思なるもんはいっさい持ち合わせていない。イシは名字に取られてしまったんでしょうね。だから、意思の力でニコチン禁断症状を乗り越えるなんて芸当はできるはずもないと思っていた。そこでニコレットを用意した。さすがにパワーがある。こいつのおかげで禁断症状に耐えると言う定番の苦しみとは無縁である。

しかし、日常のさまざまな行動の際にああ、タバコすいたいなあと激しく思う。ツラいといえばこれがツラい。生活の中のいろんな行動/動作が喫煙と強く結びついているのだ。中には意外なものもある。その関係の発見が、なかなかおもしろい。

朝起き抜けとか、午後のコーヒーブレークの時にタバコが欲しくなる。これはわかる。当たり前だ。

オヤ、っとおもったのは電話のとき。電話で話していると、猛烈にタバコを吸いたくなる。これは意外だった。考えるに、昔の受話器は肩口に挟んで通話することができたが、今の(すくなくともウチの)は軽くてつるつるでぺかぺかなので、片手でホールドしつづけていないとならない。そこでタバコとむすびつくんでしょうな。

「もしもし」
「石田さん? ○○ですけど、いまちょっといいですか?」
「ええ。もちろん」

ここで無意識にタバコを探す。もちろん机の上に探しているものはない。そこで意識化して、あれ、おれ何してんだろ、タバコさがしているんだ。あ、キンエンしてるんだっけ。くくう、タバコ吸いたいなあ。

かくして電話の内容はうわの空となる。

プログラムや、少し長い目の原稿を書く前には、裏紙などをつかって鉛筆でフローチャートもどきの図表を手書きするのを習慣にしている。アウトラインなんていう大袈裟なものではなく、ラフスケッチ。

これを描く行動と喫煙が固く結びついていたことも、キンエンしてみてはじめてわかったことだ。

不謹慎なたとえかもしれないが、事故で左腕をいきなり失った人は、生活のいろんな場面で「いままで自分はこういう時、こういうやり方で左手を使っていたんだ」ということを意識させられるだろう。リハビリ期間というのは結局のところ、いままでの習慣が破壊されてしまったことを受容し、それにかわる習慣を打ち立てる過程ということになるだろう。

禁煙も同様の過程をどう過ごすか、ということである。片腕喪失と違って、タバコは吸おうと思えばいつでも元へ戻れるため、堅固な習慣の破壊/再構築ができずに(もしくはする意味がわからなくなって)元の喫煙状態に戻ってしまうのだろう。

これまでのぼくのどの行動が喫煙とわかちがたく結びついていたのか。その発見の連続に、ぼくはいささかわくわくしている。

禁煙がこんなにおもしろいものだとは、まったく予想外であった。

なにごとも、やってみんとわからんもんやねえ。

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にしやまさんより
ご意見いただきました

[2004-12-01]

私も禁煙しました。

私も、禁煙する意思はなかったのですが、
"読むだけで絶対やめられる"が宣伝文句の
「禁煙セラピー」という本をコンビニで購入し、
2週間で禁煙してしまいました。
イシダさんも挫折しないように祈っております。
37才男


ただのシロートさんより
ご意見いただきました

[2004-12-06]

2〜3週間が山

その後は、堪えられる。
今頃が喫いたくてしょうがない頃ではないでしょうか。
私も止めた口ですが、どうしても喫いたいときは人にもらってしのいで(一日一本)、そのうち要らなくなりました。
もっとも、石田さんは、「絶対に止めたい」という感じではないみたいですね。

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