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[第15章●その他よしなしごと]
15… 正しい睡眠とは何か
[2005.07.05登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

仕事で井上昌次郎先生にインタビューした。

師弟関係にあるわけでもなく、会ったことも一度しかない相手のことを「先生」と呼ぶのには抵抗があるほうなのだが(だってそもそも相手にもシツレイでしょう)、しかし、今回は2時間のインタビューを終えた後、すなおに「先生」と(頭の中でも)呼びかけることができた。

井上昌次郎。東京医科歯科大学名誉教授。4年前に退官されているが、睡眠研究の分野では長く日本の第一人者と称されてきた人物である。

メディアの依頼でインタビューして得た情報を、ほかのメディアに書くのは仁義に反する。しかも元メディアがまだ発行前ならなおさらだ。そのうえ、インタビューイの「著作権」ということも考えざるをえない。しかし、今回依頼元の雑誌は会員制で一般の目にも触れないし、掲載部分は単ページ(原稿用紙にして3枚半)とあまりにも短く、お聞きした内容のほとんどは「聞き捨て」になってしまっている。原稿にできなかった部分から、ここの守備範囲に関係あるさわりを書いてもバチはあたらないだろうと考えた次第。テレビを見てたらこんなことを言っていたよというようなノリの内容と考えていただくと幸いである。当然、以下に書くことの文責(つーか責任)はイシダにあり、井上先生にはいっさいのかかわりがない。

現代人の多くは自分の睡眠に関して悩みを持っていると言ってもよかろう。編集なんぞにかかわっている業界の方々(除大手)はことさらである。ぼくを含めてそうなんだけど、えてして夜型になり、夜遅くまで(時には朝まで)仕事をし、勢い翌日の午前中は眠りこんでしまったりする。毎日がその繰り返しならまだしも、眠りにつく時刻と睡眠時間は日々大きく変動し、寝不足の日々が続いたりもする。

こうではいけないと思い、なんとかしなくちゃとも思う。けれども長年の習慣も変えづらいし、日々の仕事にも追われ、社会的にも容認されやすいことにも甘えて(一般企業に勤めていればオコられるでしょ、なんぼなんでも)ついつい夜型にシフトした不規則日常に陥りがちだ。

ぼく自身は、10年ほど前から、徹夜ができないカラダになった(単に加齢故である)こと、深夜の作業能率が極端に悪いことが自覚できたことから、夜は寝る、朝は起きるというふうに生活を変えた。せいぜい夜の10時頃までには夕食をとり、同時に晩酌をするという習慣が確立したから、そうせざるをえなくなったという事情もある。お酒を飲むと、シゴトはできない。

しかし、不規則型の日常であるということは変わらず、オレの睡眠はこれでいいのかなあ、と思っていた。

周りの人々に聞くと、自己の睡眠問題で悩んでいる人は少なくない。やはり夜は就寝、昼間は活動というのがまっとうな人間の踏むべき道であるのではあるまいか、などと。

井上先生によると、そのようなことはないとの由。人間の脳はたいそう発達しており、能力が高く、いつ眠るか、どれくらい眠るかに対しても、おおきなフレキシビリティを持っているそうだ。

一時的な多忙なんかで、ある期間、睡眠時間が短縮されても、脳のフレキシビリティでカバーできる。

睡眠時間は人により、年齢により、習慣により大きく違う。巷間言われる8時間睡眠にしても、近代以降の社会が押し付けたものであって、生理的にマストな時間というわけではない。

お医者さんは「早寝早起き、規則正しい生活をしましょう」などと言うのだけれど、それは彼らがそのマニュアルしかもっていないためで、もしその言説がいついかなる場合でも正しいとするなら、深夜勤務を強いられる(あるいは不規則勤務を強いられる)職業の方は、その職業についているだけで「人間としての正しい道」を踏み外していることになってしまう。

睡眠に関する最大の問題は、「夜間8時間ちゃんと寝ている」か否かではなく、「自分の睡眠はどこか間違っているのではないか」と思い込んでしまうことにこそある。

まず認識すべきは「人間の眠り方は多様である」ということ。したがって「夜起きて、昼間寝ている」という日常も、ただそれだけではなんら問題ではないということ。要は、自分で満足できる睡眠がとれていればそれでいいのだ。昼夜逆転の生活であっても、昼間、しっかり睡眠をとっていれば(もちろん自分にとってですよ)、大丈夫。昼間に眠るというのは、夜寝るのとずいぶん違った形態を取るかもしれない。しかし、そこは各人の工夫。自分で工夫してしっかり眠れればそれでよい。

問題なのは「自分の睡眠は間違っているのではないか」と思い込むことにある。特に現代は「マニュアルを求めたがる時代」だという。権威者にすがって自分の睡眠についての判断を預けてしまうほうが問題である。睡眠によってもたらされる心身の健康にとって大きな影響を与えるのは「いつ・どれだけ寝ているか」ということより、「自分の睡眠が間違っている」と思い込むことなのだ。

自分の睡眠が「正しい」か「間違っている」かは、自分のカラダに聞いて確かめていくしかない。

睡眠の内容に立ち入って考えると、睡眠にとって重要なのは、量より質である。ぐっすりと熟睡することができれば、時間は短くてもよい。熟睡を獲得するための「テクニック」としては、覚醒と睡眠の落差を大きくすることである。

つまり、起きている間は活発に活動し、寝ている間はちゃんと寝るということ。起きている時間にぼんやりしてしまうことで、覚醒・睡眠間の落差カーブがぼけてしまい、結果、熟睡が得られないことにもなる。

ただ、日周リズムには注意を払う必要があるだろう。長い歴史の中で多少は変動してきたかもしれないが、われわれを含む地球上の生物は、24時間を周期とする明暗のサイクルのなかで進化を続けてきた。そのため、体の中のいろいろなことが、この「日を単位とするリズム」(概日周期)に大きく影響されている。したがって、「規則正しい生活」というのは、よい睡眠のためには守った方がいいだろう。つまり、就寝時間・起床時間はできれば毎日同じほうがいい。

要は、自分の脳を信じなさい、ということであろう。

人間の(つまり自分の)脳は大きなフレキシビリティを持っている。したがっていろんな無理がきくようになっている。その能力の大きさを信じて、あれこれと他人のいうことに惑わされるなということなんでしょうな。

これはぼくにとってはストンと落ちた。

世に快眠術を説く本は多く(井上先生もお書きになっているんだけど)、快眠グッズもおびただしく売られているんだけど、ぼくたちの睡眠を巡る不安は、睡眠自体にあるのではなく、睡眠に問題があると感じているその感じ方自体に内在していると考えた方がいいってことだ。

なお、インタビューに先立って、当然のことながらぼくは予習をしていったのだが、そのために読んだ本の中では井上昌次郎「睡眠」化学同人(アマゾン)が最も面白かった。カタい本だけれども、非常にわかりやすい。読みながら「おお、そういうことだったのか」と膝を打つ。

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[2005-07-09]

不規則な生活の限度

不規則な生活を強いられる同業者でござる。
井上昌次郎「睡眠」化学同人は、わかりやすい良書ですが、問題もあって、これ古いんです。ことに90年代後半から、生体リズムと脳神経・ホルモン分泌なんやらに関しては、新たな知見が続々と得られてますので、ご留意を。
また、私のケースでいえば、夜更かししても朝は早めに起きるようにしてます。徹夜どころか48時間不眠なんてのもしばしばですが…。そんな不規則な生活の無理がきくのは1週間ですね。
基礎データとして、2週間ほど、起床と就寝時刻と体調を記した日誌をつけるのはおすすめです。典型的にダメな場合をいえば、だんだん起床時刻、睡眠時刻がずれていくパターン。内的脱同調の実験でよく示される事例で、1週間なり2週間過ぎると、体内リズムが<暴走>を始めます。

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