2008-12-06

伊藤文学『薔薇ひらく日を』


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● 伊藤文学『薔薇ひらく日を―『薔薇族』と共に歩んだ30年』(河出書房新社)

★★ 肯定も否定も含めて、ちゃんとした評伝が書かれるべき人です

著者である伊藤文学氏は、同性愛の商業誌「薔薇族」の編集長を続けてきた人物である。1971年に創刊された同誌は、ポルノグラフィーを主な内容にしながらも、孤立した同性愛者たちを応援し、励ますという役割を担ってきた。本書『薔薇ひらく日を』は、そこで伊藤氏が30年にわたり書き綴ってきたエッセイを抜粋した一冊である。

同性愛の専門誌としては、それ以前にはミニコミ誌しか存在せず、多くの同性愛者が情報に接することは、不可能に近かった。当事者はただ一人、他人に語りえない性に苦悩するしかなかったのである。

ところが、「薔薇族」が一般の書店に流通することにより、同性愛の欲望を抱えた人たちが多数存在することが明らかになり、誰でもそのネットワークにアクセスすることが容易になっていった。

情報がないということが、同性愛者たちをどれほど厳しい抑圧状況に置いていたのかは、この本からも窺える。とくに初期のエッセイで語られる、同性愛者の自殺の話や、結婚の圧力に苦悩するエピソードは深刻で、胸をえぐる。

伊藤氏は読者からの手紙を丹念に取り上げ、何度も何度も、同性愛は恥ずかしいことではない、病気でも変態でもないのだから、表に出てこようと呼びかける。自身は同性愛者ではなく、それを擁護するという立場なのだが、その熱心な姿勢には、雑誌の編集長という立場を超えて、社会運動家といった趣さえある。

現在では、日本でも同性愛者による社会的な行動が盛んに行われるようになっている。ゲイパレードも開催され、人権推進政策の中にも、差別の解消が盛り込まれるようにもなった。そういう当事者主体の運動の中で、伊藤氏のような形での代弁者は、もはや必要ないのかもしれない。

本書は、そうした状況がまだ夢でさえもありえなかった時代に、偏見や差別と格闘した人たちがいた記録として、書棚に残すべきだろう。 

*初出/茨城新聞(2001.7.21)ほか