2007-07-10

QJw「会社で生き残る!」9

vol.2.jpg高校教員●43歳
「先生、さぶっぽいですね」

[名前]青山大輔
[居住地]東京
[業種]教育
[職種]公立学校教員

・東京の先生はスカしてる?

都立高校の教員です。一度新卒ですぐ教師になって、それを数年で辞めて、留学したり大学院に行ったり一般企業に勤めたりしてからまた復帰したので、教員生活は通算すると13年ほどですね。いままで正規に勤めてきた学校は高校ばかりです。自分のセクシュアリティを自覚する以前、子どものころからずっと学校の先生になりたいと思っていたから、この職に就くときにゲイであることによる葛藤はまったくなかったですね。

ゲイとしては生きにくい職場ではありません。この業界は結婚していなくてもそんなに不自然に思われない。独身の先生もわりと多いけど、その人たちが、「結婚しろよ」と上司から言われることは絶対にありません。それは教育活動にとってあまり関係のないことだし、プライベートなことだから。東京都では「教頭」ではなくて「副校長」と言っていますが、管理職は副校長以上です。副校長になり校長になることを、出世コースと呼べるかどうかははなはだ疑問ですが(というか、自分は出世だなんて全く思わない。笑)、それを仮に出世だとしたとしても、バツイチのゲイや独身のゲイで管理職になっている例も知っているので、出世に結婚はまず関係していないと思います。

男女もほぼ平等ですね。一般企業だと若い女の子を入れて数年経てば肩たたきをするということもあるだろうけど、そういったことは絶対にない。女の先生が結婚しても勤めているのは当然だし、産休に文句を言う人もいない。ただ、いけないことではあるけれど、子どもがいることであまり残業が出来ない女の先生に向けて、「こういうときにいないと困るよね」という話が出たりすることはあります。でもそれが公の議論として出ることは絶対にあり得ません。男同士の下半身の話題もほとんどないですね。最初に就職した関西とは違って、東京の先生って、結構スカしてるんですよね(爆笑)。

・教員にゲイ・レズビアンはけっこういる

職場で特にカミングアウトはしていません。どうしてもここでしなければいけない、という状況になればするかもしれませんが、いまはそうではないし、一部の理解してくれる先生の何人かには言っていて、というかバレていて、閉塞感があるわけではないので。カミングアウトによって面倒なことが起こらないとも限らないしね。

ただ、もしカミングアウトをしても、個人の感情レベルで気持ち悪いと思われたりすることはあるかもしれませんが、公に攻撃されることは制度的にありえないと思います。学校というところは、とりあえず「人権第一」なところがあるから、もしぼくがゲイだということがばれて問題が起きたら、「生徒がゲイであることで悩んで相談に来たときに、あなたはその生徒を変態でキモチワルイと言うのですね」と徹底的に追い詰めようと思っている。そういう人権擁護的な立場を盾に取ればこっちが負けることはない。ただ予想される面倒なことは、対生徒と保護者の問題ですね。彼らには人権といった天下の宝刀を持ち出しても伝わらないことがやはりありますから。

いまは10年前に比べて一般社会でのゲイについての情報量も多くなって、意識も変わってきているから、カミングアウトしてもそんなに びっくり仰天! ということにはならないとは思います。ただ、お互いの信頼関係をきちんと築いていれば大きな問題にはならないだろうと思いますが、もし生徒側にぼくを嫌がっているような状況が少しでもあって、そこで生徒が、ぼくがゲイであることをあげつらってややこしいことを言いだしたら面倒だな、という心配はありますね。まあ、以前、「先生、 さぶ っぽいですね」と言われたことはありますが(笑)。それにしても向こうも事情通ですね(笑)。

保護者で予想される困った反応は、男の子を持つ親が、うちの子になにかされるんじゃないか、というようなことを言い始めることかな。少し考えたらそれも失礼な話で、じゃあヘテロの男性教師に女の子を持つ親はいちいち心配しているかといえばそうではないわけだし……。まあ、いざとなったらそういうところで闘うしかないけれど、いまは教育委員会も管理職も保護者の意見にとても弱いので、そういう意味でもなるべく面倒なことは起こさないほうがいいかな、という気はしています。

職場ではゲイということで居心地の悪さを感じることはあまりありませんが、先日職員室で、ぼくがゲイだと知っている先生と別の先生が修学旅行の下見の話をしていたんですね。ぼくは本棚越しにその会話を聞いていたので、彼らがぼくの存在に気付いていたかどうかはわかりませんが、下見のときに二人が同じ部屋に泊まるという話で、彼が相手の先生に、「〇〇先生はコッチ系じゃないですよねー、一緒に寝ても襲われたりしませんよねー」というようなことを言ったんです。そこでやおら本棚の後ろから姿を現して、「いまの発言の撤回を求めます!」というのもなんだし(笑)、かといってオネエを使って、「ちょっと、アタシの前でよくそんなことが言えるわねぇ」というのもノンケの方には馴染まないだろうから(笑)、結局黙って仕事をしていました。でもぼくがゲイだということを知ったことでその人の対応は変わったと認識していただけに、結局そういうことを言っているというのはショックでしたね。

教員にゲイやレズビアンの人はけっこういますよ。ぼくが知っているだけでもたくさんいます。職場でのカミングアウトの割合は一般企業の状況と同じくらいじゃないかな。ぼくの知っている限りではメディアでもカミングアウトをしている人は3人。ゲイでは高取昌二さんと平野広朗さん、レズビアンでは池田久美子さんですね。あとFTMの宮崎留美子さんも。彼女は今日のメーデーでも女装姿で現れてかなり目立っていました。エライっ!(笑)。

今日のこのハチマキですか?(笑)気合の入った組合活動家ではないけれど、メーデーには毎年行っています。ポリシーとしては、君が代反対と教育基本法の改悪反対ですね。ゲイの人権問題とも根っこのところでは繋がっていると思います。君が代問題は君が代自体が問題というより(もちろん問題なのだけど)、それを教育現場で強制して従わない奴は罰するといったところがより重大な問題で、基本法改悪のほうは「愛国心」といったような一つの思想を持たなければいけないと規定しようとしているところが、多様性を認めないという点において問題だと思っています

組合における性的マイノリティの運動としては宮崎留美子さんとふたりで、その問題を組合の運動方針に入れて欲しいと文書で申し入れたことがあります。結果はどうだったかな……。性同一障害の問題だけ入ったのかな、ずいぶん前のことなので自分でしておきながら格好悪いんだけど忘れました(笑)。実際、人権に意識の高い人たちがいる組合でも性的マイノリティの問題は、それに抵抗感があるのかどうかもわからないくらい出てこない。やっぱり組合の中でも人権問題の王道ではなくて端にある感じかな。性教育についても、ぼくがこれまで勤めてきた学校の中では系統的にされていたということはなかった。保健や家庭科で意識のある先生がそういう話をしたということは聞いたことがあるけど、学校をあげて性教育をするということはありませんでしたね。前の学校にいたとき、人権がらみの授業を持つことができて、そのときはゲイ・レズビアン・トランスジェンダーの方々に次々と来てもらい、いろんな話をしてもらいました。これは自分で言うのもなんですが、とてもいい授業だったと思います。いまでも後任の先生が、そういうやり方を踏襲してくださっていて、感謝しています。

ゲイが受けるプレッシャーだけを特別だとすることは出来るか、ですか? 大変さということで言えば、ノンケのライフコースを生きている同僚の中には、親の介護で大変な人もいるので、大変さの意味合いは人それぞれ違うとは思いますが、ゲイであることの大変さは排除の対象になったり制度的に守られていなかったりということを伴う大変さだから、介護の大変さとは質が違うような気はします。

・夢は彼氏と一緒に犬の散歩

保険と住まいですか? それについては保険プランナーに、ぼくはゲイなのでお金を遺す必要はない、ということをきちんと話してプランを組んでもらいました。死んだときに出るお金は葬式代くらいにしてもらって、入院手当てを厚めにしてもらいました。月々2万7千円くらい、ちょっと高いかな。貯蓄型なので、何かでお金が必要なときはそこから借りることができます。いま住んでいるマンションは、30代半ばにローンを組んで買いました。

いまのところ病気で入院したことはありませんが、一昨年、心の病気で「病気休暇」をとりました。診断はうつ病です。一昨年の2月から8月の終わりまで6ヵ月間ですね。「病気休暇」の間は、給料はほぼ全額、ボーナスは勤勉手当だけがカットされます。6ヵ月を超えると「病気休職」になって、給料は8割出ますがボーナスは出なくなります。その保障はひとつの病名で2年までですね。病気の原因ははっきりしていて、職務上の問題です。というか、石原都政による横暴に精神がついていけなかった、という感じでしょうか。薬を飲まないと眠れない状況で、かなり辛かったです。夏休みが終わると同時に復帰しましたが、それからはなんとかやってます。もし何かで緊急に入院することになったら、仲のいい近所の友達に身の回りの世話を頼むでしょうね。友達はゲイが中心ですね。ノンケの友達もいるけど、東京出身じゃないので、東京には少ないですね。

いまの生活に対する満足度はトータルで75点ですね。ゲイライフは満足していますが、パートナーがいないのがね(笑)。仕事はなりたかった職業に就けて満足ですが、いまの教育状況はけして良くはないし、まだしなければならない仕事があるから、残りは25点。右傾化によってゲイだけでなく、すべての人々が生きにくくなっていってると感じています。小泉政権によって拡大した、あらゆる「格差」がますます広がって、思いやりのない、すさんだ世の中になっていくのではないかという危機感がとてもありますね。

パートナーは大募集中です! そんなに営業しているわけではないけれど、ミクシィの彼氏募集中コミュに入ったりしています(笑)。一生付き合えた、というのは結果論でしょうが、一生付き合いたい、と思えるパートナーとめぐり逢って、代々木公園で一緒に犬の散歩をしたいですね(笑)。