2007-06-19

QJw「会社で生き残る!」その1

ikinokoru.jpg会社で生き残る!

取材●伏見憲明 構成●茶屋ひろし・川西由樹子

芥川賞を受賞した絲山秋子氏の『沖で待つ』に、
こんな言葉がある。
「事実は現場にしかないのですから」
──まさにその通りだ。
本当のことは一人ひとりの生活の中にしかない。
一方で、理論は理念の自己弁護に終始しているし、
アンケートや統計で出てくる数字にも
時代のリアリティを感じられなくなっている。
だったら、「現場」に話を訊きにいこう。
一般社会で生きるゲイたちはいったいどんな思いを抱いて働いているのか、
どんなふうに社会生活を生き抜こうとしているのか。
そしてそこにあるリアリティとはどういうものなのか。
業種、職種、年齢などを異にする
13人のゲイたちに、インタビューを試みた。
みなさん、語りにくいことをいっしょうけんめい言葉にしてくれた。
そこに浮かび上がってきた、06年のゲイたちの時代がここにある。

大手メーカー●36歳
フェラチオでさえ憧れの同僚たち
[名前]小橋雄介
[居住地]関西
[業種]製造業
[職種]エンジニア

・小さいころからオッサンぽかった

機械をつくっている会社です。業種でいうと製造業で、職種は設計、エンジニアになります。最初に配属されたのは東京近郊にある工場ですが、本社は一部上場の大企業で、社員も何千人といます。いま働いているのは関西にある出向先の工場です。そこの従業員は300人くらい。93年に、国立大学を卒業して就職しました。大学のときに研究していたロボット制御と関連した事業部門があって、初めはそこに研究志望で入社しましたが、研修を受けているうちに設計のほうがおもしろそうだな、ということでエンジニアを志望しました。
就職のときに自分のセクシュアリティを意識したか、ですか? そこまで気が回らなかった(笑)。自分がゲイだということはわかっていましたが……成績がそんなに良くなかったので成り行きで入った感じです。でもまあ、考えたとすれば、場所が東京近郊だったので、東京に遊びに行くのに距離的に問題はないかな、というくらいですね。もともと地方都市出身なので大都市のど真ん中には住みたくなかった。セクシュアリティを考えるのなら、大都市の方が良かったかな、とあとで思いましたが、勤めるときはあまり考えませんでした。

職場はいづらくはないですね。やや男尊女卑的なところもあるので体制的には遅れた職場だと思いますが、そういう場所にいてもぼくはあまり苦しくはないので。大学のときに入っていたワンゲル部で体育会的な雰囲気への免疫が出来ていたせいかもしれませんが、ノンケの友達と喋っていても、女がどうのという話は適当に受け流すことが出来るから。小さいころから見た目も、オッサンぽいとはよく言われていましたし(笑)。

・結婚しないと変態扱い

設計の職種自体はべつにマッチョである必要はありませんが、つくっている機械がガテン系なので、それを買ってくれるお客さんの業界がマッチョな感じです。職場の中で女性の割合は40人中5、6人くらい。最近は図面を引ける女性も、派遣ですが、ちらほらいます。正社員では事務の女の子くらいですね。

だけど、男は結婚して一人前、っていうのはありますねえ。そのことが組織で出世に必要な条件だから、ではないんですが。32歳くらいから、飲み会や普段の会話で、「年齢的にはそろそろだよね」と言われ始めました。それは会社の方針ではなくて、雰囲気……そこにいるひとたちの共通した認識というか常識ですね。結婚しないとちょっとした変態扱いをされます。いま、関西で出向している子会社は、規模が小さいせいか結婚圧力はより強くなりました。地方ということもあるでしょうけど、結婚するのが当たり前、という感じです。「なんでまだ結婚しないの?」ということをかなり明確に言われるようになりました。そういうときは、「縁のものですから」みたいな答え方をします(笑)。結婚しない生き方もあるのに、なんでそういう言い方をするんでしょうかねえ。結婚に関してだけは、ひとのことはどうでもいいや、という風にはならないんですよ。

職場で下半身の会話はそんなにないですね。風俗を好きなひとはいますが、職場ではそのひとたちはかえって特異な存在になっている。地味な職種のせいか、じっさいソープに行くひとはあまりいないんですよ。行ってもスナック止まり。休憩時間でコーヒーを飲んでいるときに出るエッチな会話も、「フェラチオ、って気持ちいいらしいよ」「え、してもらったことないの?」「あれは気持ちいいぜ」、みたいな可愛い話(笑)。それでぼくが「奥さんにしてもらえばいいじゃん」とか言うと、「そんなこと言い出したら離婚される」って。性的にウブなひとが多いのか、フェラチオですら特別な行為なんですよね。まあみんながみんなそうじゃないだろうけど、ぼくの周りではそんな感じです。だから猥談よりも社内恋愛の噂話とか、家族とか子どもの話のほうが多い。子どもの話ではぼくはよい聞き役になりますが。

職場でカミングアウトはしてこなかったけど、いまの職場ではぼくがカミングアウトをしたひとはいます。たまたま会社以外のボランティア活動で同じ会社の女の子と知り合いまして、一緒にご飯を食べに行く仲になったんですね。それがどうも俺に気がありそうな感じがして、彼女もいい年だし結婚を期待させたら悪いなと思って、けっきょくカミングアウトをしました。そのときは驚いていましたが、いまはすっかりぼくがゲイであることに平気になってしまって、一緒に街を歩いていても、「あのひとタイプでしょう?」とか言ってくるようになりました(笑)。最近になって彼女に、「ぼくがカミングアウトしたときにどうだった?」 と聞いたら、「大切な秘密を打ち明けてくれた気がして嬉しかった」と言ってましたけど。

カミングアウトするまでわかりませんでしたが、やっぱりしたあとでは会社生活が違いますね。いままでは息苦しかったんだなー、と思いました。土日は大阪に出てゲイバーにも行きますが、平日は家と会社の往復でそれがストレスになっていたんですね。その頃は関西に来たばかりでご飯を一緒に食べる友達もいなかったから、カミングアウトしたことによって、平日でも、ゲイの友達と同じように楽しく彼女とご飯を食べに行ったり恋愛話も出来るようになったりしたので、ずいぶん楽になりました。もしいま、ぼくになにかあったらとりあえず身の回りのことは彼女に頼むと思います。

・「遊びに来るひと、体の大きな男のひとが多いですねー」

会社でのホモ疑惑ですか? ひとり先輩でしつこく聞いてくるひとはいます。そのひとがホモなんでしょうかねー、それはわかりませんが。嫌なひとではありませんが、ホモネタが好きなんでしょうね。それを振られたら、「さあーどうですかねー」とはぐらかしています。意外と好戦的かもしれない!(笑)そうですね、そこで引くとさらに調子に乗るから。

他のひとに関しては、いまは会社のアパートに住んでいまして、そこには同じ職場のひとも3人ほど住んでいるんですが、そうするとお互いの休日の行動がなんとなくわかったりするんですよね。あのひとの部屋には女の子がよく来ているとか。ぼくの場合は、女っ気のないわりにはよく出歩いているから不思議なやつだと思われています。あと、「遊びに来るひと、体の大きな男のひとが多いですよねー」と言われたりしています(笑)。

職場でオープンリーにするとどうなるのかな。表立って石を投げられたりすることはないだろうけど、噂されたり足を引っ張られたりということはあるような気がする。基本的にいまいるところは人数も少ない。300人という数は、ラインで働いている外来のひとも含めてですから、工場で働いている正社員はみんな顔見知りです。そういう環境だと多少気を遣わざるを得ないんじゃないかと思います。それにゲイの存在は想像の埒外というひとも多いからパニックになってしまう気がするので、ぼくもわざわざカミングアウトをする必要は感じませんね。

家族にもカミングアウトはしていません。今日はたまたま弟の結婚式で関東に来ていたんですが、式のあとに両親や親戚からは散々言われましたよ(笑)。ぼくが長男ということもあって、親戚は、「下も結婚したしおまえも早く結婚して両親を安心させなさい」と言うし、親は「早く結婚してよ」ともうそれだけ。できればカミングアウトをしたいという考えはありますが、両親の反応をまったく想像できない。父が65歳、母は55歳です。両親が孫の顔を見たいという気持ちはよくわかりますが、それを願ったまま死んでいくほうがむごいのか、カミングアウトしたほうがむごいのか……。一緒に暮らしていたら、なんかこの子おかしいな、と親のほうでもある程度予感なり覚悟ができるかもしれませんが、そうではないので、もしカミングアウトをしたらそれこそ晴天の霹靂になってしまうんじゃないか、と思います。

保険は生命保険に入っていて、ぼくが死んだら1千万円が父に入るようになっています。それが恩返しといえるかどうかはわかりませんが、親より先に死んだ場合はそうしたほうがいいかな、と思って。終身保険ですね、月々1万円くらいです。入院手当ても厚めにしています。住居に関してはまだあまり考えていません。いまのところは関西に住んでいてその土地を終の棲家にする気はないので賃貸でいいかな。地元に帰って親と同居することは考えていませんね。今後の親の介護に関してはこれから考えていかないといけないな、という感じです。自分の老後も心配なので細々と貯金はしています。

いま、パートナーはいませんが、好きなひとはいます。仕事に関しては出世したいとは思わない。綺麗ぶっているわけではないけど、まあ暮らしていければいいんじゃないか、と思いますね。たとえば、自己実現の図れるやりがいのある仕事と、好きなひとと幸せに暮らす生活のどちらかを選べと言われたら、あとのほうを選びます。

プライベートの人間関係はゲイが多いですね。みんなとセックスするわけでもないのに(笑)、ゲイのひとといるほうが楽だし楽しい、あれってなんでしょうね? 会社のノンケのひとはつまらない。話題も、家庭か車かパチンコ、それに釣りか野球で、映画の話ひとつできないし。交友関係も結婚してしまうと限られてくるので、不自由な感じに見えます。それに比べると、ゲイの友達とは、自分の好きな話題を共有しているし、年齢も職業も様々だから、話していておもしろいということはあるかもしれない。ゲイの友達は関西と東京で離れていますが、ミクシィのおかげで繋がっています。マイミクは60人くらいで、その中でゲイじゃないひとは5人かな。それ以外は中学高校の同級生や先ほどの女友達ですね。女友達は、俺のマイミクのひとたちの写真は上半身を脱いでいたりするから、みんな一緒に見えると言われています。俺の写真はマシなほうだと思うけど(笑)。

生まれ変わったら、ですか? またゲイがいいですね。大げさかもしれませんが、尊敬できるひとはゲイのひとが多いし、ゲイじゃなかったら知らなかったことも多かったように思えるから。

福祉関係●35歳
保母さんじゃなくてホモさん?
[名前]佐藤幸一
[居住地]東京
[業種]福祉関係
[職種]知的障害者デイサービス施設保育士

・「お父さん」にはなれないから

いまの職業を志したのは、素朴に子供が好きだったから、ですね。高校生くらいのころから将来は保育園などに勤めたいなと考えていて、たまたま地元の県民便りを開いてみたら、保育士を養成する専門学校の案内を見つけたんです。県で運営する機関なので、授業料はほとんどタダ。実家は貧乏でしたから、「これだ!」と思ったんです。とはいえ、税金で運営されているだけあって、学校の教育方針は非常にシビアでしたね。「入学したからには絶対に一人前の保育士になってもらう」という空気が肌身に伝わってきて、かえって腹を括った感じです。

職業選択には、ぼくのゲイというセクシュアリティも多少は影響していますね。保育士養成学校に通っていたころに、現場の空気を知るために保育園でボランティアをさせてもらったことがありまして。そのさい、「将来は保父さん(当時の呼称)になりたいんです」と自己紹介したら、保母さんたちから「保育園にもやっぱり、『お父さん』がほしいわ」という反応があったんですよね。そのときに、「あれ?」と引っかかって。保育士という職場は、基本的に「お母さんとお父さん」の世界なんだ。でも、自分はいわゆる「お父さん」にはなれないし、「オカマだからお母さんよぉ」とかいうものでもないし(笑)。世間的な異性愛カップルを規範とした「母親・父親像」は自分にはちょっと無理。でもだからこそいいかも、と思ったんです。お母さんやお父さんの代わりじゃない、あくまでも「プロの保育士」として、子供たちのケアをするエキスパートになりたい、と。そう思いました。それ以外にも、自分はゲイだし、自立するために一生続けられる堅実な有資格職に就かなきゃという意識も、保育士を志した理由ですね。

ぼくがゲイだとはっきりアイデンティファイしたのは、高校1年の夏くらいかな。それなりに悩みもしましたが、意外とあっさり吹っ切れましたね。ちょうど映画『モーリス』なんかが流行った時期で、とりわけ女の子たちの間では「ホモってステキぃ♪」みたいなヤオイっぽい空気が漂っていたんです。そのおかげで、周囲の友達には受け入れられそうな雰囲気でした。それで、何週間か考えた末に「ええい、言っちゃえ!」と、勢いに任せて仲のいい友達みんなにパーッとカミングアウトしてしまいまして。拍子抜けするほどすんなり受け入れられましたね。あれには、当時のぼくのキャラクターが幸いしたのかもしれません。ぼく、高校に入学したときは身長が150センチなかったくらいで、極端に小柄だったんですよ。発育が遅かったんですね、なにせチン毛が生えたのは、高2のときでしたから(笑)。みんなはぼくに、「ちっちゃくて幼い」と、マスコット(ペット)的なイメージを抱いていたようです。そんな子供みたいなキャラクターの男子が「ぼく、男が好きみたい……」と言っても、露骨にセックスを連想させない分、あまり抵抗感を覚えなかったんじゃないかな。将来について思い悩むことも、とくにありませんでした。強いてあげれば、すごく子供が好きだったので、「ゲイの自分は親になれないじゃん、がっくり……」みたいなのはありましたけど。でも、先行きの不安といったものは、本当にありませんでしたね。

・アメーバ赤痢は同性愛者の病気?

女性が主体の職業だから、と保育士を志したわけではありませんが、いまの職場はゲイにとって居心地のいい環境だと思います。経済的に自立しているせいか、女性看護師や保育士にはシングルが多いんですよ。おかげで、独身でいてもとくに奇異の目で見られるということはありませんし、結婚圧力も感じたことはないですね。職場ではほとんど全面的にカミングアウトしているので、しょっちゅう「保母さんじゃなくってホモさんね!」なんてベタなギャグを言われています(笑)。初対面の相手だと、社交辞令的に「佐藤さん、ご結婚はなさってるんですか?」と訊かれたりしますから、そのときにカミングアウトを。最初のうちこそ相手もとまどいますけど、ゲイへの嫌悪感をむき出しにされるようなことはまずありませんね。そのうち、時間が経つにつれて、先方もぼくがゲイだという事実に慣れていっちゃいますから。

とはいうものの、無神経なことをポロッと言ってしまうタイプは、どんな業界にもいるものです。じつはぼくもわりと最近、その手の体験をしたんですよね。同僚と院内感染の話をしていたときに、アメーバ赤痢の話題が出たんです。そうしたら、直属の上司が「それは同性愛者の病気なんだ」と言い出しちゃって。どうやらネットで拾った情報らしくて、あまり信憑性の高い説ではなかったようなんですけど、そのとき冗談半分に「佐藤くんはだいじょうぶ?(笑)」なんて訊かれてしまいまして。ちょっと考えたら、これはかなりおかしな飛躍なんですよね。「アメーバ赤痢に気をつけよう」ということと、「同性愛者だからかかる病気だ」というのは、まったく別問題なんですから。思わず上司に、「それって本当に同性愛者の病気なんですか? どこで入手した情報で、どういうつもりでそんなことをおっしゃったんです?」なんて問いただしちゃったりして。

こう見えてもぼくはわりと小心者で(笑)、そんなに攻撃的に突っかかっていくタイプではないんですけど、この上司の発言は、一種のセクシャルハラスメントだと思いました。とはいえ、組合などに「あれはどう考えてもセクハラだ、アクションを起こしてくれ!」なんて働きかけたりする気はありません。職場で「うん?」と思うようなことがあったら、あくまでも個人単位で、言うべきことを言う。それがぼくの基本的なスタンスです。こんなふうなので、「ゲイならではの職場ストレス」は、あまり感じたことがないかな。むしろ、ストレートならではのストレスというか、つくづく「おじさんは大変だな……」と思うことが多いですね。たとえば、飲みにいったときなんか、おじさん連中が口にするのは「娘が口をきいてくれなくって」「『定年になったら離婚してやる!』と女房に言われてさ……」なんて、アイタタタな話題ばかりだったりして。対照的に女性スタッフは、「言いたいことを言ってやるわ!」みたいな、自由でたくましいキャラクターが少なくない気がします。

ただし、昔と比べてだいぶ女性も増えたとはいえ、管理職の男女比率は、だいたい4対1くらい。そんな実情を反映してか、女性の職員はそんなに出世を意識しない傾向があるので、本音を口にしやすいのかもしれませんね。それに、保育士の仕事の現場を支えているのは主に女性スタッフですから、そうした現実が彼女たちの自信を下支えして、言いたいことが言えるタフなキャラクターを養成しているのかも? そういうおばさんたちと、職場に入ってきた男性職員の話題でキャーキャー盛り上がったりしていますね(笑)。

だけど、同じ職場にやはりゲイのひとがいるのですが、彼はカミングアウトはしていないようです。ぼくはあるとき、たまたま二丁目で彼がゲイだということを知ってしまい、なんとなく、職場でそっち関係の話題を彼に振ってみたところ、しばらく目を合わせてもらえなくなってしまったんですね。だからゲイのひとがみんなオープンにしているというわけではありません。

・マンションの頭金で大学へ

将来設計といえば、ぼく自身もそんなに「バリバリ出世してやる!」というタイプではありませんね。老後についても、まったく考えていなかったりします。貯蓄とも縁がありませんし。言い訳がましくなってしまいますが、以前はマンションの購入を念頭に、めちゃくちゃ貯金したりしていたんですよ。ところがなぜか、いきなり大学へ通いたくなっちゃったんです。マンションの頭金程度の額は貯まっていたものの、授業料を払ったら、貯金がきれいに消えてしまった。なので、現在は貯蓄ゼロ、あるのは借金のみという状態です。

老後のための貯蓄は、厚生年金にあたる共済年金に自動的に入っています。あと、就職したときに生命保険のおばちゃんに言いくるめられて加入したやつも。それは年金型保険と医療保険が合体したタイプで、三大成人病にも対応しています。現在の保険料の支払いは、月に2万円くらいですね。貯蓄型なので、60歳を過ぎたら、年金として毎月ある程度の額が支給される予定です。職場のひとたちにも「せっかく若いうちに入ったんだから、途中で解約なんかしないほうがいいよ」とことあるごとに言われているので、とりあえず継続しています。死亡保険には入っていませんから、万が一の事態になったら、貯蓄した分は親の手元に渡ることになりますね。住居に関しては、現在はパートナーのマンションに転がりこんでいます。家賃はまったく負担せずに(笑)。それ以外にも職場の単身者向けの寮を確保していて、もうじき解約する予定なんですけど、こちらには月1万1千円を支払っています。

普段の人間関係は、ダンスのサークルに入っていたりしたのでその関係者や、大学や専門学校時代の友人が大半ですね。ミクシィとかもそんなに積極的にやるタイプじゃありませんし、あんまり友達は多いほうじゃないと思います。ゲイとノンケの割合は半々くらいかな? カミングアウトは全員にしています。人間関係で唯一アウトしていないのは、母親くらいのものですね。なんというか、気恥ずかしくて、いまさら面と向かって言葉にできないんですよ。前に劇団で芝居をやっていたときに、公演のパンフレットにぼくのセクシュアリティがきっちり書いてあったので、その公演を観た親は十中八九は知っているはずなんですけどね。とりあえずパートナーとの生活は、親には「大事なひとと暮らしている」と伝えてあります。

子供のころから志していた世界ですし、一生保育士を続けていきたいと思っています。本当に、不思議なほど仕事は楽しいですね。ぶっちゃけた話、この仕事にもそれなりにリスクはあるんですが。たとえば、お世話をする方の中には感情や行動をうまく自制できない子もいて、ケアが不適切だったりした場合に、職員や他の利用者を傷つけてしまうようなことも、まれにはあるんですね。鉛筆で頬を刺された、ということもありますし。身体の大きなお子さんが相手の場合は、一生後遺症が残るような負傷をする可能性も、ないとは言えません。そうした事故の話を聞くたびに、とても悲しい気持ちになります。だけど、その手のリスクを差し引いてもなお、こちらの働きかけによって利用者に喜んでもらえれば、ぼくとしても嬉しくてしようがないというか。楽しいと思えることをやって先方にも楽しんでもらえて、それでお給料をもらって食べていける。素朴に「こんなに嬉しいことはないなぁ」と思うんですよね。

・彼のいない人生なんて考えられない

将来同性カップルの養子縁組が可能になったら、ぜひこの手で自腹切ってでも育児をしてみたいという願望はあります。保育士の職務の中には養護施設や教護院、最近の言葉でいうと児童自立支援施設の勤務という分野もあって、実習でその手の機関に行ってみたことがあるんです。そのときに、「子供の養育は少人数でしたほうがいいのかも」と思ったんですよね。決してそうした施設の環境自体を否定するわけではないですし、家庭が絶対だなんて考えてもいませんが、理想を言うのなら、ということです。高校時代に自分がゲイだと気づいたときに、ぼくはいろんなものを断ち切ってしまったんだと思います。小さなころから子供が大好きで、いずれは子育てができるような家庭を持ちたいと考えていた。でも、当時は男同士で家庭を築くようなパートナーシップのモデルケースをテレビや雑誌で見かけることもありませんでしたから、自分の中で、ある意味「覚悟を決めて」しまった。そうしないかぎり、セクシュアルマイノリティとして生きていくことはできなかったんです。

32歳でいまのパートナーと出会ったときも、あいかわらず「自分はひとりで生きていくんだ」というスタンスでした。ところが相手は、「同居が大前提」というタイプ。いっしょに暮らそうという申し出を突っぱね続けたのですが、根負けし「試しに3ヵ月だけ、騙されたと思っていっしょに住んでみる。で、だめだったら諦めてくれ」と提案してみたんですね。いわば罠にかかったようなものなんですけど(笑)、結果的に「かかってよかった」という感じですね。実際に同居をはじめたら、「ああ、大好きな相手といつもいっしょにいられるのって、ほんとに楽しいんだ……!」と実感できましたから。

いまのぼくは、彼のいない人生なんて考えられませんね。いなくなったらどうしようかと不安になるくらい。向こうがずっと年上なんですが、なんとなく「ヤツは200歳くらいまで生きそうだぞ……」みたいな感覚があったりしますが(笑)。

*「クィア・ジャパン・リターンズ vol.2ーー生き残る」(ポット出版/1996)より