2002-04-08

書店の危機と変貌する若者のメディア接触

 2002年4月7日(日)午前1時30分、朝日放送で放映された「テレメンタリー2002」は書店の危機をテーマとした30分のドキュメンタリー番組であった。題して「誰が書店を殺したのか―出版不況の構造に迫る―」。(朝日放送制作、テレビ朝日系で放映。東京では4月11日(木)午前2時41分。地域によって放映日が異なる。http://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

 言うまでもなく、出版業界内でよく読まれた佐野眞一著『だれが「本」を殺すのか』をもじったタイトルである。テレビを見て驚いた。私もよく知っている川辺佳展さんがこのドキュメンタリー番組のまさに主人公の扱いで登場していたのである。なんと書店を2つもつぶした店主としての役回りである。

 そういえば出版営業をしている友人から書店トーク会という有志の会の事務局をしている私に、今はコンビニを経営している元・書店主を朝日放送に紹介してほしいと言われたことがある。結局、その人は出演していなかったが、きっとこの番組の話だったのだろう。また先週、朝日放送で夕方の6時半からのニュースの中でこのドキュメンタリー番組とまったく同じシーンが登場していたのを見た。書店の話だったのでビデオにとっておいたのだが、朝日放送制作のドキュメンタリーなので、ニュース特集としても流したのだろう。

 それはともかく、「誰が書店を殺したのか」である。今ではスーパーストアになっている店内を川辺さんが歩くシーン。野菜とか並んでいる売り場で「このあたりに雑誌を置いてあったんですよ」と川辺さん。そこは神戸市西区にあった書店「チャンネルハウス」跡である。つぎに川辺さんがチャンネルハウスを清算して開店した神戸市中央区・元町の「烏書房」跡が映し出される。ここはガランとしたビルの1室となっていた。

 ドキュメンタリーではほかにも大阪・難波の書店激戦区の模様を大型書店としてのジュンク堂書店と、店の商品の半分近くを料理関係書に特化し、生き残りをはかる街の本屋である波屋書店の双方を紹介することによって描きだしていた。

 また、コンビニでの雑誌販売が街の本屋に与える影響、新古書店であるブックオフの展開がもたらすコミック作家の印税収入減や万引きとの関係、図書館における利用者への貸し出し問題なども取り上げていた。さらに、書店の注文品の迅速調達のためにつくられたトーハンのブックライナーという在庫照会、配送システムを取り上げるなど、多様な視点から書店の経営危機の深層に迫ろうとしていた。ドキュメンタリーとしてはなかなか意欲的な内容であったといえよう。

 しかし、30分という放映時間の中ではくわしく触れることができなかった問題がある。それは若者のメディア接触の変化である。番組の中ではケータイなどによって読書時間が減っていることが一言述べられていたが、じつは本や雑誌がかつてのように売れなくなっている状況を考える上で非常に重要なのが、現在のメディア状況全体の中で本や雑誌がどのような位置を占めているのかという視点なのである。

 前回、韓国の出版業界のあり方に変革を迫るものとして、オンライン教育の拡張で市場自体の消滅すら語られるようになった学習誌市場の話を紹介したが、韓国では「近代化では遅れたが、情報化には遅れるな」を国家的なスローガンに、急速なIT化を進行させてきた。

 日本でも2002年度から改訂された学習指導要領で高等学校においては情報処理が必修となり、「情報活用の実践力、情報の科学的理解、情報社会に参画する態度」を重視する情報教育が実施されるところとなった。すでに私学などではこれを先取りして、1人1台のノートパソコンをもたせ、インターネットによる情報の収集、wordやexcelの習熟、power pointをつかったプレゼンテーションの授業、ホームページの作成など、おとなを凌駕するパソコンのスキルをもった高校生を育成していることはもっと知られてよいだろう。最近の若者はケータイで友人とメールして遊んでいるだけと思われがちだが、必ずしもそうとばかりは言い切れないのである。

 大学では図書館が電子図書館化し、学生は全国の大学図書館が所蔵する資料だけでなく、インターネット上で新聞記事を検索し、電子ジャーナルで雑誌論文を利用する。また、図書館には情報コンセントが設置され、ネットワークを利用した文献の探索、レポート作成、演習室でのプレゼンテーションに活用することができるといった具合である。

 それが今日では、高校生もこのようなシステムを利用できるようになってきている。例えば、大阪の桃山学院高校の図書館では生徒が自由に蔵書検索に使えることを目的としてタッチパネル式の図書検索システムを導入している。

 また、大阪府立中央図書館でもインターネットを利用したレファレンス(参考業務)を現在の電話、FAX、文書からインターネットを利用して受付けられるようにし、レファレンス・データベースを構築することを目指している。このe-レファレンスは、学校図書館においては、まずはモデル校を決めて生徒からのレファレンスを司書教諭経由で図書館が受付け、回答していこうという試みである。2003年度からは一般の利用者にも範囲を拡大することになっている。

 さらに、学校図書館では2003年度から12学級以上の学校には「学校図書館司書教諭」の配置が義務化されることになっている。新・学習指導要領で定められた「総合的な学習」では、このようなレファレンスが非常に重要な位置を占めることになるだろう。

 このような学校教育の変化は当然、生徒や学生たちのメディア観を変化させることになる。インターネットで情報を検索し、パソコンを利用して記録・発信するということが常識化している時代の子どもたちが、これからのメディアをデザインしていくのである。

 「1986年には全国で1万3000軒あった書店が昨年、9000軒を下回ってしまった」(朝日放送「誰が書店を殺したのか」)原因は、そのようなメディア状況から考えなければならないだろう。