2009-11-30

談話室沢辺 ゲスト:太郎次郎社エディタス・須田正晴 第2回「いまだに、信頼できる書誌データがない」

●ノウハウを、もっと共有していきたい

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沢辺 太郎次郎社エディタス、もしくは中小零細出版社、もしくは版元ドットコムとして、須田くんは今後何をやりたいと思ってるんですか?

須田 版元ドットコムとしては、細かいノウハウの共有を、もっとたくさんやっていきたいです。あまりアイデアがあるわけでもないし、利用者がどれくらいいるかわからないんですけど、高島さんや私が売上分析や書誌整理のためのエクセルのテンプレートを公開したりしてる(版元ドットコム:資料・ツール)じゃないですか。ああいう、何か始めようと思った人のきっかけになるものがあるのがすごく大事だと思っています。
私が版元ドットコムで活動していてありがたかったのは、入社直後に先輩が辞めてしまい、部署的なすれちがいもあって誰からも教わることができなかった営業を教わる場所ができたということでした。そういう場所として機能していくために、今FAQなどでやっているのを、もっと整理していきたいです。
例えば出版用語辞典も、「なかなか難しい」という話になったんだけれども、あれを簡単なところからもう一度立ち上げられないでしょうか。具体的に言うと「辞書」なんですけど、たとえばパソコンを買って来たばかりの状態では、「トーハン」って変換では出ないじゃないですか。「日販」も出ないし、「日教販」も出ないし、「延勘」も、「返条付注文」も出ない。そういう類のものって、大きい会社ではちゃんと辞書があると思うんですよ。それとも、個々人が鍛えてるんでしょうか。

沢辺 なるほど。そこは疑問に思ったことはなかったな。

須田 まあ、沢辺さんは自分で鍛えちゃうんだと思うんですけど、個々人が辞書を登録しているのって無駄じゃないですか。出版用語辞書を作ってあれば、それを入れるだけで出版関係の用語が簡単に出てくるようになって、しかも「じょうび」と入れたときに「常備」という漢字だけじゃなくて「本の所有権は出版社にある」とか、検索候補の中にヘルプが出てくるようにできたらいいな、と思ってます。細かいことなんですけど、ただでさえ小さい会社の人間が、一つひとつやっているのは手間ですから。そういうツールが入った便利箱が版元ドットコムにあって、各自が作ったものをどんどん入れていけたらいいな、と。
まあ、辞書に関しては本当に使いでのあるものになるかはわからないですけど、社内にパソコンを入れる度に出版関係の用語を入れるのが面倒くさい。新しいパソコンでその用語を初めて打つときに辞書登録するから、あっちのパソコンには入ってるけど、こっちのパソコンには入ってない、ということになるわけです。そんなの統一しちゃいたいと思うんですけど、社内のためだけだと、あまりやる気がしない(笑)。というのも、得することよりも、その辞書をメンテする手間の方が大変なので。ただ、共有辞書に少しずつ上げていくのであれば、後の人のためになるし、誰かが上げてくれれば、自分も苦労いらずでたくさんの語彙のものをダウンロードできますからね。
自社の用語の使い方と多少違ったとしても、やっぱり、共通であったほうがいい。そういう小物のノウハウ共有をもっと進めるのが、版元ドットコムでやりたいことの一つです。
あとは、そろそろ書店直送が現実的にできるんじゃないかな、というのが、沢辺さんたちの35ブックスの話を聞いて出てきました。今のところ、返条付は難しいかな、と思うんですけど。
他にも、前にトランスビューの工藤秀之さんと何人かが、取次の改訂版の書式について組合会議で話しているのを聞いて、「そんな書式があるんですか」と言ったら、メールでパッと書式を貰えたのが、非常にありがたかったです。まずそういう書式が存在することすら知らないと、貰うこともできないことじゃないですか。だから、本当は問題あるのかもしれないけど、そういうのもどんどん版元ドットコムの共有箱に入れていって、「最新版は窓口に貰いに行ったほうがいいかもしれないけど、こういうものが存在しているんだよ」ということが恒久的に分かるようにしておくのがいいと思うんです。
それなりに大きな会社では、「この時には、こうなってるから」というノウハウは社内の誰かが教えてくれるのかもしれない。でも小零細の出版社の中にいると、それがない。だから、版元ドットコムはノウハウ共有の一助になることを期待されているんだろうな、と思います。だから、そこは読者が、というよりは会員さんに使い勝手がいいものですね。

沢辺 オレはもうちょっと皮肉な、斜めな目線で見ちゃうんだよね。例えば改訂版のノウハウにしても、工藤くんは、そこでパッと書式が出てくるわけだよね。これ自身、なかなか凄いことだよな、と思うわけですよ。トランスビューって、社員3人くらいで、営業やってるのは1人だよね? つまり、工藤くん自身がそこまで全部カバーしていて、パッと出てくるわけよ。この前も、「d/sign」っていう太田出版の雑誌から松本晶次さんの『わたしの戦後出版史』(トランスビュー)という本の書評を書いてくれっていう依頼があって、書いたんだけどさ。依頼を受けたあと、会議か何かで工藤くんに会ったとき、「今度あの本の書評書くんだよ」って言ったの。そうしたら「書評のPDF送りましょうか」と、1ファイルになった書評のPDFが送られてくるわけよ。そういうのをキチッと整備しておくのって、意外と大変じゃない?

須田 工藤さんの整理能力と事務能力は、何か異常だと思いますよ。

沢辺 でしょ? 工藤くんのようにできる人はこの世にそうそう居ないんだから、彼を基準にしちゃいけないな、と。それと、須田くんのように改訂版についてのクエスチョンを立てられるということだけでも、大したものだと思うんですよ。問題を立てるのって、結構難しいじゃん。わかってないと、問題意識もないしね。
オレが何を言いたいかというと、現状の組合員はかなり優れている人が結構入っているから、組合員の基準で版元ドットコム全体を進めることはできないよね、ということで。

須田 「それはついていけないよ」というのは、頭においておかなきゃ、と思います。でも、皆がすぐできることはどのくらいか、というのは考えてるんじゃないでしょうか。例えば、自分は組合員なのに、このあいだメーリングリストに流れた版元ドットコムの会員社アンケートをまだ答えてないや、いうことが現実にあります。組合員社にもそういうズボラなのがいるんだから、会員社には、もっとメーリングリストをちゃんと見ていない人がいるだろうな、というのは想像できるわけです。

沢辺 そのアンケートのことについて、一つ「あ、いけない」と思ったのは取次の集品回数と出版社の納品サイクルを入れておけばよかったな、と。書店にとっては、それを情報として集めるのは大変でしょ。

須田 そういえば、日販の王子流通センターには「出版社カレンダー」というのがあるみたいですね。つまり出版社の営業日を把握してるみたいなんです。お盆とか暮の時期になると、日販から、「王子はこういう動きです。おたくの会社はどう動きますか?」というアンケートが来るんですけど、そのアンケートに「これは出版社カレンダーには反映されません」と書いてあるのに気づいたんです。ということは、出版社カレンダーというものがあって、書店はそれを参照してるんじゃないか、と。それがここ半年くらい引っかかってる疑問としてあって、もちろん電話して聞けばいいんですけど、電話したらいなかったのが2回くらいあったのでそのままになってる(笑)
日販のカレンダーは日販と取引している書店さんにしかいらないでしょうから、集品の期日とかと合わせて、書店さんに持ってもらえたらいいですよね。

沢辺 それは、版元ドットコムのMLに直ちにメールしておく手だよ。「出版社カレンダーというのが前から気になっていて、僕が調べます」でもいいじゃない。そうすると、誰かおせっかいな人が、おせっかいじゃないや、親切な人が「知らないの? こういうのがあるんだよ」って教えてくれたりするかもよ?

●出版社は、書誌情報をどこに持っていけばいいのか

須田 それから、既刊の書誌のメンテナンスについて。版元ドットコムは、新刊の書誌情報を流すことは結構しっかりやってきたんですけど、既刊のメンテナンスは大課題だと思っています。歯抜けになっている書誌情報があるのに、それがそのままになっている。さらに、その既刊の書誌は日外アソシエーツ・紀伊國屋連合、トーハン・TRC連合が持っていて、出版社ではなかなかタッチさせてもらえない。あれをなんとかタッチできるようにさせてもらって、既刊のデータも版元ドットコムと同期を取っていくのも、地味なようで大事な仕事なのかな、と。
最近ジュンク堂から「書誌情報の整備のために、『絶版』や『品切・重版未定』の情報が欲しい」という話があったみたいに、書店があてにできる既刊のデータベースは、現状、ありません。その状況は問題があるので、一括して版元ドットコムから呑み込んでもらえるところを増やしていきたいですよね。一方で、版元ドットコムに書誌情報をちゃんと登録してない会員社も多々あるので、信頼度のあるものを作らなくちゃいけない、と思うんです。でも、そこは鶏とタマゴで、使ってもらえるんだったらメンテしようか、という気にもなりますよね。

沢辺 須田くんの言う通りで、オレも年に3回くらい、「一斉メンテナンスやらないとまずいよな」と思うんだけど、「版元ドットコムのデータをメンテナンスしても、それを反映させてくれる場所がまだない」というのと、「反映させるべき場所が一杯あって、その全容を版元ドットコムも確定しきっていない」という2つがもう一歩、前に出れない「カベ」になっているんだよね。

須田 そうですよね。日外アソシエーツに行って聞いても、相変わらず全容はわからない。「何となくあの辺のブロックとあの辺のブロックが書誌を融通し合ってるみたいだけど、変えてもらうにはどこに持っていったらいいのか」がわからない。

沢辺 そうそう。例えば日外は紀伊國屋・日販グループだけど、日外の書誌を直してもらえば、日販や紀伊國屋も直るのか、逆に日販を直すと日外に反映されるのか、それとも個別に直してもらわないといけないのか、というのがわからない。

須田 そうです。聞きにいってもよくわからなかった。誰も把握してないんじゃないでしょうか(笑)

沢辺 書誌データに関しては、図書館の書誌データも気になってるんだよ。例えば国会図書館の書誌データと我々の書誌データが、果たして同一性が取れているのか。

須田 国会図書館といえば、ビックリしたことがあって。この間、小社で写真集を出したんですけど、そのあと国会の人から電話がかかってきて、「この著者は、小学館の児童向け絵本で写真を撮っている人と同じ人ですか」と言われたんです。「えっ? そんな仕事してたんだ?」と思って編集部の人に聞いたら、どうもそうらしいと。

沢辺 それも書誌データと同じで、せっかく国会が著者の同定をしてくれているのに、出版社側はそれを全く利用できていないよね。つまり、国会図書館の著者同定の作業でわかったことの中には、実は出版社が知らないことも、意外とあると思う。確かめてないけどね。
それでわざわざ『ず・ぼん12』で、「国会図書館の地下では、どうやって書誌情報を作っているのか」を調べに行った(記事のPDF:「国立国会図書館・JAPAN/MARCの現場を歩く[インタビュー]」)んだけど、やっぱり、かなりのことをやってるわけですよ。
例えば著者を同定する作業なら、その同定の経過も記録してるの。

須田 「出版社の営業部の須田に電話をしたら、『そうだ』と答えた」とか。

沢辺 そうそう。「出典はこれで、同一人物として確認した」とか、その出典もコピーして貼付けて、全部確保してる。せっかくそこまでやってくれてるのに、それを出版社が利用できていないのは、逆にもったいないと思う。

須田 既刊の書誌データの話に戻ると、受け入れ先としてジュンク堂はいいな、と思うんです。というのは、ジュンク堂のデータが充実すれば、どんなに売れない本でも3年に1冊くらいは注文が来るんじゃないか、という気がする。そうするとモチベーションが上がる。
他では、太郎次郎社がずっと前に出して、後からISBNを付番した本があるんですが、ISBNがついていない本としての情報がAmazonの中にあるんです。それがあろう事か、Amazonの検索順位で、ISBNがついているほうよりも上位に来ちゃう。具体的に言うと遠山啓さんの著作集・全29巻なんですけど、「遠山啓」で検索すると、岩波新書とかが上位に出てきて、次にうちから出している遠山さんの本の中で売行きが良い本が出てきて、そこから下のほうに、古本屋が出品している著作集がダーッと出てきて、そのさらに下に50冊くらい掘っていった先に、太郎次郎社の新品の著作集が在庫有りで一応出てる。でも、そんな下位に在庫有りで出ていても、誰も見てくれないですよね。
「ISBNがついている時代とついていない時代があるけれど、同じ本だからマージしたい」と思うんですが、マージできないんですよね。Amazonに直接聞いてみたことがないのでわからないんですけど。仕組みからしてどうも無理だろうって思ってます。

沢辺 「大きくつかまえて細かいことは無視する」というAmazonの商売の考え方は、それはそれで妥当性はあると思うんだけど、「本を売るうえで、同じものは同じものとして表示したい」というのもわかる。Amazonの中に「どうしたらいいですかね」と相談のできる人を見つけられていないのは、課題だよね。

須田 そうですね。Amazonや図書館のデータベースの中に話に乗ってくれる人がいて、「じゃあ出版社のほうでメンテしてくださいよ」と言ってくれるかというと、言ってくれないわけですからね。
だから今回、ジュンク堂が向こうから話を持ってきてくれたことに対して、「こういうこともあるんだな」と、ちょっと感激してるんです。その一方で、品切などの情報についての感度では、版元側と書店側には乖離があるじゃないですか。版元側は売り逃すのが嫌だから、少部数でも在庫があるものは「ある」と表示させたいのに、書店側から来るのは、「新規出店に出せるか聞きたい」とか、「一回貰えばメンテはもうしなくていいよ」という話になってしまう。今回、せっかく向こうから言ってきてくれたんだから、もっと詰めていって、リアルタイムとまではいかなくても、週に一度とか、それでも無理なら月に一度とか、在庫情報とクリーニングした書誌情報を更新する仕組みを作りたいですね。

沢辺 インターネット上のどこかに基本的な書誌情報を網羅したものがあって、そこから吐き出されるものをAmazonやジュンク堂が持っているデータとマッチングする仕組みが作れたらいいよね。マッチングしてズレがあったら自動的に出版社に問い合わせメールを出して確認、修正する、ということもできるかもしれない。例えば国会図書館のPORTAのデータを、ジュンク堂もAmazonも信用します、ということになれば、版元は国会のデータを直せばいいことになる。そういうルートができるのがいいよね。
でも、こういうことが具体的にオレたちの頭に立ち上ってきたのは、やっぱり10年間、あれこれ考えながら版元ドットコムをやってきたからだよね。

須田 そうですね。どの辺に問題があって、何が分からないのかが見えてきたのは、10年経ったからですよ。

次回へ続く

第3回「小さな出版社が、電子書籍について考える」
前回分は、
第1回「太郎次郎社エディタス・須田正晴は如何にして版元ドットコムに入ったのか」

プロフィール

須田正晴(すだ・まさはる)
太郎次郎社エディタス 営業部勤務
1995年太郎次郎社入社。2003年太郎次郎社エディタス設立にともない移籍。
版元ドットコムには設立時より幹事・組合員の一員として参加している。
Twitterのアカウントは@sudahato

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