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映画編 10090807060504030201

映画編09●調布映画祭バリアフリー上映「みんな一緒に!」

●書き手
稲葉千穂子さん
City Lights

宣伝の意味もこめまして、今回は稲葉自らが映画祭実行委員として企画して、City Lights が協力して行っている調布映画祭のバリアフリー上映のお話をします。
3月9日(土)に、調布市文化会館「たづくり」12階 大会議場で、「男はつらいよ〜知床慕情」と「風と共に去りぬ」のバリアフリー上映をいたします。
無料ですので、みなさん是非観に来てください!

調布映画祭バリアフリー上映「みんな一緒に!」
企画プロデューサー 稲葉千穂子

1)バリアフリー上映企画を提案するに至る道のり
昨年4月、私は、東京の北区でバリアフリー上映推進団体 City Lights というボランティア団体を起こしました。ひょんなきっかけで知り合った視覚障碍者の方々が、映画に大変興味をもっていて…にも関わらず、ほとんどが字幕上映の映画館では、映画を観てもさっぱりわからないから、映画はあきらめざるを得ない状況にあることということを知り、いち映画ファンとして、なんとか目の見えない人たちにも、「音」の環境を整えることで、「聴く」映画鑑賞を可能にすることはできないだろうか?と思ってこの団体を立ち上げました。
 
目が見えなくても、テレビドラマについているト書き解説の副音声のようなものがあれば、映画鑑賞もできるのに…という意見を聞き、今まで私たちは映画の副音声づくりに取り組んで参りましたが、いざ、映画を上映するには、会場のレンタル料やフィルムのレンタル料、映写技師派遣料などがかかり、私たちのような、まだ立ち上がったばかりのボランティア団体では資金的な面で、バリアフリー上映を行う機会がなかなか持てませんでした。そんな折、「調布映画祭では毎年、一般市民の有志がいろいろな上映企画をプロデュースしている」という情報を得て、調布市民ではないけれど…とダメモトで調布映画祭の実行委員として参加させていただき、企画を提案させていただきました。
 
はじめは、みなさん「目の見えない人が映画を?」と思いますが、たくさんの視覚障碍者の方々が、映画鑑賞を切望しているということを伝えると、実行委員の方々も企画を1番に支持してくださり、今回2002年の調布映画祭で私たちに、バリアフリー上映の企画をプロデュースするチャンスを与えて下さいました。バリアフリー上映をプロデュースするのは、団体を立ち上げてからの1つの夢でしたので、決まったときには本当にうれしかったです。
 
 
2)上映作品を決めるにあたって…
上映作品を決めるに当っては、日頃映画を観られない障害者の方々が映画を観ることの出来る、せっかくのチャンスですから、当事者の方々に観たい映画のアンケートをとりました。調布市福祉センターや調布市社会福祉協議会の方々にもご協力いただき、集計作業を行いました。
 
結果、邦画は「男はつらいよ」の要望が圧倒的に多く、これは、耳の不自由な方にもご鑑賞いただけるように、字幕付きで上映したかったので、まず字幕付きのプリントを探しました。田町の障害者福祉会館で所蔵していた字幕付きプリントは、あまり上映される機会がなかったために、処分されたという(なんとももったいない!)情報が舞い込んできたので、冷や汗をかきましたが、幸いにも新宿の福祉センターが計7本の寅さんシリーズの字幕付きプリントを所蔵していましたので、その中でも傑作の評判の高い、「第38作 知床慕情」を上映することにいたしました。
 
洋画の方は、「見えていた頃のハリウッドの名作が観たい」「昔の名画を観たい」という意見が多く、「ローマの休日」や「カサブランカ」「風と共に去りぬ」などの言わずと知れた名作の名が、数々上がりました。どれも人気の名作なので、配給がフィルムを出してくれるかどうか心配でしたし、なおかつ副音声付き上映をすることに関して、許可が得られるかどうかが不安でしたが、「風と共に去りぬ」は交渉の末、配給会社から許可をいただくことができました。全編、約4時間の大作です!決まった時には武者震いしました…。(笑)
 
 
3)副音声制作について…
上映する作品はどちらも字幕スーパー版の16ミリフィルムで、耳の不自由な方にはバリアフリーといえばバリアフリーですが、目の不自由な方には「音声ガイド」と言われるト書き解説、つまり場面の状況説明が必要になります。そして「風と共に去りぬ」の方は、フィルムに焼かれている主音声が英語なので、さらに、字幕朗読(日本語セリフ朗読)というサポートも必要です。つまりセリフ+音声ガイドの副音声を作らなくはなりません。
 
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●音声ガイド制作
City Lights立ち上げより、研究してきた音声ガイド制作の手腕を発揮する時です!音声ガイドの原稿作りについては、City Lightsのボランティアたちが、寅班と風共班に別れて、視覚障碍者のモニターの方と一緒に、丹念に討議しながら作成しました。音声ガイドづくりは、ともするとその人の主観的解釈が入ってしまいますし、言葉一つで想像する映画そのものが変わってしまうため、言葉表現を慎重に検討しなければなりません。親切に説明しすぎても、映画の雰囲気まで壊してしまってはいけませんし、少な過ぎて映画の面白さが、十分伝わらないのでもいけませんし…本当に難しい作業です。朝から晩まで議論して、やっと30分進んだ…とかそういう世界です。しかし、時間をかけただけあって、この音声ガイドは非常に完成度の高いものに仕上がったと思います。作品に忠実であり、しかも映画の雰囲気を壊さず、聴き心地のよいガイドに仕上がっていると思います。これは、健常者であっても楽しめる、新しい映画鑑賞スタイルなのでは?と自負しております。
 
●「風と共に去りぬ」の字幕朗読(セリフ朗読)
今回のバリアフリー上映では、会場に設置されている同時通訳機を使い、目の不自由な方には、イヤフォンでこの日本語のセリフ朗読と音声ガイドを片耳から聴いていただきます。場内には、フィルムに焼かれた主音声(英語)とサウンドトラックが流れます。ですから場内の音とイヤフォンから聞こえる副音声とをミックスして聴いていただき、映画のイメージを膨らませてもらおうというわけです。
 
日本語吹き替え版のように、主音声が消され、アフレコの日本語セリフだけが残るわけではなので、最終的には同時通訳の映画を聴くような感じになります。ですから、字幕朗読は主音声(元の役者さんの声)を生かし、声のニュアンスをまねるように読んでいただかなくてはなりません。演技はオーバー過ぎず、かといって朗読調に淡々とし過ぎず…主音声とのバランスを取りながら読んでいただくわけです。
 
何せ出演者の多い「風と共に去りぬ」です。総勢60人ほどの配役を決めなくてはなりません。この朗読には、まず調布市文化会館「たづくり」の図書館の朗読グループ「水曜会」のメンバー30人と、City Lightsで募集した朗読希望者、それから実行委員の知り合いなどを集め、オーディションを行って配役を決めました。オーディションでみなさんの声の質を聴かせていただき、適役を選ばせていただきました。みなさん、素人さんとは思えないほどレベルが高いので驚きました。第2の武者震いがおこりましたよ…。(笑)
 
●映画史上初!?全盲の映画声優!
中でもエキサイティングなのは、オーディションに視覚障碍者の方が6人も応募されたことです!日頃、City Lightsと親交の深い「トークパフォーマンス劇団 こうばこの会」の視覚障碍者の役者さんたちが、立候補してくれました。中には自ら主演のスカーレット・オハラを希望された方もいました。彼女は宝塚の大ファンで、「風と共に去りぬ」の公演は何度も観たし、原作も読んでいる。「風と共に去りぬ」にはとりわけ思い入れがあるので、是非スカーレットを!でなくとも、なんでもいいからやらせて欲しい!と積極的なアプローチをいただきました。他にも「見えていた頃に夢中になって観た映画。とても思い出深い映画だから、わたしも出演したい…」とおっしゃって、目が不自由な上に車椅子で参加して下さった方もいらっしゃいました。
 
今、正直に明かすと、はじめは視覚障碍者の皆さんにオーディションの声をかけるとき、どうしようかと戸惑いました。映画のセリフを当てる方法が思い付かなかったからです。映像をみないで、画面に出る字幕を読むタイミングをどうはかったらいいか…頭を悩ませました。
 
しかし、参加したい!というみなさんの、この他ならぬ思い入れに押されました。こんなにもやりたいと思っている人にセリフを読んでもらえることの方が重要だったし、バリアフリー上映は、それを創るところからバリアフリーでやることに、大変な価値があると思ったからです。方法なんて、考えればなんとか編み出せるもの。そう思って、希望者には全員参加していただきました。その結果、スカーレット役に美月めぐみさん、メラニー役に、永澤美智子さんお2人とも全盲の方で、女性のメインキャストが決定いたしました。
 
字幕はみんなで分担して起こし、点訳版の台本と音訳版の台本も作成いたしました。そして読み合わせの練習では、まずどんな状況でどんな表情でこのセリフを言っているのかを理解していただくため、全編状況説明をつけてビデオをよく鑑賞してもらい、本編を理解してもらってから収録に望んでもらいました。途中、何度か台本の訂正が入り、点訳台本もギリギリに上がってきた状態で、みんなやきもきして大変でした。そう、忘れもしません。みなさんにやっと台本をお渡しできたのは…クリスマス・イヴの夜でしたっけ…
 
 
●セリフの収録
収録が1月8日〜14日の1週間。前もってその日程は決まっていたものの、年末になるまでどうやって視覚障碍者の方々にセリフを読んでもらったらいいか悩んでいました。やるなら視覚障碍者の方だけ特別な方法ではなく、皆同じ方法でやりたかったし…。
 
セリフ朗読の条件は…1)元の映画の情報をなんらかの方法で伝え、本編にそった演技をしてもらうこと。2)音声ガイドを挿入するため、主音声の尺をはみ出ない早さで読んでもらうこと。3)セリフの掛け合いの早さについていくこと。
 
1)については、もう耳で聴いてニュアンスをつかんでもらうしかありませんから、自分の読むセリフにあたる元の役者の英語の声というのを聴いてもらう他ありません。が、皆さん通訳者なわけではありませんから、字幕がテロップされるタイミングをみないと、どこからが自分のセリフ文に当るのかがわかりません。かといって、「字幕が出たら、背中を叩いて知らせれば?」という意見もありましたが、合図を受けてから点字を読み、セリフを読むのではどうしても1テンポ遅れます。そして、2)の「尺をはみ出ないための読みの早さ」をどうはかったらいいかもわかりません。3)の掛け合いの早さも、非常に言葉数の多い早口な映画なので、これについていくのは、晴眼者であろうと難しい…
 
悩んだ結果…1)主音声を頼りにし、2)読むスピードも意識し、3)本編の早さについていくこと…このうちの3)は、編集で合わせることにして、条件からはずしました。
 
そして、とうとう編み出した方法。それは…日本語字幕に当る、英語セリフを1つ1つ抜き出して、その部分をヘッドフォンに流し、その英語セリフの尺と同じ分だけの空白をつくり、その空白の間に字幕を読んでもらうというやり方です。
 
自分の読むセリフにあたる英語セリフを聴いてから、そのニュアンスを意識して読んでもらうので、1)の条件が、満たされます。それに、英語を聴いている間に、点字台本をよみ、セリフの読み出しをスタンバイしておけるので、読み遅れも解消できます。読み出しのタイミングは英語の音声の途切れで把握できるため、誰かに背中を押されたりして合図を送ってもらわなくてもセリフを読めるわけです。それに、字幕を読んでもらう分、空白をとった尺の長さは、英語セリフの長さと同じ分だけとってあるため、次の英語セリフの音声が出るまでに読み切ることを意識すれば、読みのスピードも把握できるわけです。次の英語セリフに被ってしまったら、読むスピードが遅いということだから、もっと早く、被らないように読むという風に…。これで、2)の読みのスピードの条件もクリアされるわけです。
 
しかし、やっとひらめいた方法なのに、これを口で説明すると、誰からも反対されました。「そんなやり方で読んだことない!」「映像に合わせないアフレコなんて考えられない!」と、いろいろと反論がありました。しかし、そう言われても、最終的に「聴く」映画なんですから、「音」を意識して創るべきです。そうでなくてはバリアフリー映画にはなりません。制作の段階で、晴眼者の合理性のために、障害者が背伸びしなくてはならないような方法ではダメなんです!
 
私には「もうこれしかない!これならうまくいく!」という確信があったので、もう1歩も引きませんでした。どう考えたって、他に視覚障碍者と晴眼者が同じ条件で、しかも負担なく読む方法が考えられませんでしたから…。
 
しかし、この収録方法。口で説明するとみんな頭をかしげましたが、実際やってもらうと、「読みやすい。」との声があがって、割とすんなりみなさんにも賛同を得られました。中には、目は見えていても高齢の方がおられたのですが、映像のスピードについていくのが大変でどうしようかと思っていたから、この方法で安心したと言って下さって、ひとまず、ほっとしました。
 
●1週間の収録
こうして迎えた収録ですが、これはお金持ち?の調布市が「たづくり」内にもっているプロ仕様並みの素晴らしいスタジオで、音響技術の方が2人もついて、本格的に行われました。私は?といいますと、何せ、ディレクターなんて初めての経験なので、ジタバタ、ドタバタ、大変な騒ぎで、本当にみなさんにはご迷惑、ご心配お掛けしましたが、なんとかすべて取り終えることができました。
 
収録では、みなさんの声のよさ、演技のうまさに本当に驚きました!特にスカーレットの美月さんは、英語のスカーレットの声のニュアンスを、みごとにまねてセリフを読んでおり、耳の感覚のすごさにうなってしまいました。メラニーが死んでしまうシーンでは、声の朗読だけで想像が膨らみ、映画以上に感動を覚えてしまい、調整室で思わず目を潤ませてしまう程でした。
 
配役のみなさん、特にメインキャストの方々は午後夜間、終日拘束で、のど飴をなめながら、うがいをしながら、ろくに休憩が取れないにも関わらず、毎日調布まで通っていただいて、本当にすいぶんと頑張っていただきました。そして、実行委員だけでなく、文化振興財団の職員の方々にもいろいろとご協力いただき、しまいには声の出演までしていただき…みなさんの努力とあたたかい支援に本当に感謝、感激です。調布映画祭…なんて素晴らしいのでしょう!
 
これからのDAT20本の山のような編集作業を考えると、ほんの一山越えただけにすぎませんが、貴重な経験をさせていただき、本当に感謝しています。
 
この収録テープはみなさんの汗と涙の結晶ですから、何としてでも、編集そして、フィルムとの同期合わせをクリアし、9日のバリアフリー上映には大成功をおさめたいと思います。
 
私たちのバリアフリー映画は、調布映画祭2002、3月9日「たづくり」大会議場にて上映いたします。みなさん、是非ともご来場ください。障害の有無に関わらず、『みんな一緒に!』大きな感動を体験できたらと、心より願っております。

   
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