2008-06-10

いまさら、Taizo?!

旧聞に属しますが、次のようなニュースを発見しました。

「美人キャスターTAIZOで栄冠…海外映画祭で最高賞」
(http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/entertainment/151142/)

上記タイトルで、次のような記事が書かれています。「06/06 23:33」という表記と「ZAKZAK」のロゴが載っています。

「美人キャスターが挑んだ映画が世界に認められた。

 ドキュメンタリー作家の中島多圭子(たかこ)さん(37)の『TAIZO』が、先月行われた第1回バーレーン国際人権映画祭でドキュメンタリー最優秀監督賞に輝いた。『追い続けようと思っている中東に認められたことが何よりうれしい』と手放しの喜びようだ。

 カンボジア内戦の最中、1973年11月に単身アンコールワットをめざし『もし、うまく地雷を踏んだら、サヨウナラ!』と手紙に残して散った戦場カメラマン、一ノ瀬泰造さん(享年26)。『「TAIZO』はその一ノ瀬さんの足跡と、息子の写真を焼き続ける母、信子さんを追った。

 2003年に公開されて以来、現在も上映会が続き、昨年には海外向けに英語版が完成、フランスなどで高い評価を受けている。

 それが縁で中東・北アフリカ地域で初めて創設されたバーレーン国際人権映画祭からオファーを受け出品。5月1-4日の開催期間中、会場を訪れた。

 中島さんは『出品作は世界各地から計18本。全く予想していなかった』というが、ふたを開けてみれば最高賞。『壇上ではアラビア語だったので何の賞だか分からなくて、席に戻って初めて知った』と笑う。

 プロデューサーの奥山和由氏(53)も『海外での上映に弾みがつく』と手応えを語る。」

「TAIZO」って題名で杉村タイゾー衆院議員(自民党)のことだと私は勘違いして、彼を追った作品が賞をとっちゃうの?!と思って、記事を読んだのですが、ここでいうTAIZOとは写真家・一ノ瀬泰造さんのことなんですネ。彼をモデルにした映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」は良かったと思いますよ。でも、この映画で一ノ瀬さんのネームや神話は完全に消費しつくされたのではないでしょうか?いまさら、第2弾が出て、評価を呼ぶことはありえないのではないでしょうか?

そんな疑念を抱きつつも、日本のドキュメンタリー作品がフランスで高い評価を受けているというのに、この記事を読むまで自分はその事実をまったく知らなかった。隔世の感だなぁと少し落ち込みながら、どこの仏メディア・批評家が評価しているのかと興味を持ちまして、

・TAIZO
・Taîzo
・Taïzo

という3つのワードを手がかりに同作品のフランスにおける評価について調べました。
「TAIZO」という表記ですと、「テゾー」と呼ばれる可能性があります。
「タイゾー」と発音させるため、仏語に配慮したら、下の2つが表記上ありえますので、念のため、検索用語に入れておきました。

www.taizo.fr

ってサイトがすぐに見つかったので、早くも発見!と喜び勇んで、サイトに行ったら、「Taizo」という男性向け化粧ブランドの商品ページが出てきました。

まあ、ネット検索・現地プレスや邦人学生とメールでやりとり・詳しいパリ在住日本国籍者に電話を入れる(無駄な作業ですね~)など……自分が数日の間でとれる手段をすべて遣いましたが、上記3つのタイトルとフランス共和国を結びつける情報は一件もキャッチできませんでした。

監督の名前で調べてみたら、昨年10月に行われた「モナコ公国ドキュメンタリー映画祭」(Festival cinéma vérité – Monacoが現タイトル。かなり超訳しました。仏語を機械的に訳せば、「vérité」は真実・真相・事実という意味で使われる初級レベルの仏単語、「cinéma」は映画の総称または映画館、「Festival」は「お祭り」を意味する単語です。「モナコ・ノンフィクション映画祭」というのが忠実な訳かな)にNakajimaさんが映画「Taizo」を出品していたという情報を入手しました。私が得た事前に関係者に配られた予定表通りコトが進んでいるのでしたら、、2007年10月13日午前10時~12時という2時間ポッキリの枠で「Taizo」は上映されたはずです。作品は90分だそうですから、妥当な範囲じゃないですかネェ~。

モナコ公国は仏語が公用語なので、映画祭では当日、仏訳された字幕が付いたのかもしれません。仏訳がついたので、映画が自然と隣国フランスに輸出され、巡り巡っていくうちに、いつのまにか同国で「高い評価」を得るにいたったのかもしれない。可能性はゼロじゃないです。

でも、私の確認しうる範囲では、「フランスで高い評価」というのは、「言っちゃったモンが勝ち」のようです。ウラがとれません。「Taizo」という作品が仏国内で議論された痕跡すら見当たりません。上映するかもしれないマニアックな単館にも確認をとりましたが、同作が仏で公開された形跡はありません。仏国内では試写会も開かれていない、今後、公開される可能性もほぼゼロといえる映画だという情報が仏全国紙・記者から私に流れてきました。フランス国内では、
「話題にすらのぼらなかった作品」
のようです。映画PR側から仏メディアに宣伝したこともないようですから、無視されて当然なのでしょう。

もしも、映画「Taizo」がフランスで上映されたと言い張る人がてれば、いつどこで上映されたのか情報をぜひとも、御提供いただきたいです。
あるいは、映画のDVDやVHSがフランスの関係者に渡され、密かに高く評価されるようになったというのであれば、評価した人の名前が知りたい。批評文も原文(仏語ですよね)で読みたいですね。御親切に邦訳なさらずにけっこう、原文を読みます……という姿勢で、批評に向かいます。この表現が「超訳」するとこういう日本語になったというおもしろいタネがあれば、ボツになるのを覚悟で、記事にするかもしれません。

「映画TAIZOがフランスで高い評価」という話が事実だったら面白い。どこで、そうなっちゃったんだろうか調べて、顛末を記事にしたいものです。どうも 同映画PRに携わる者が吹いたホラが発信源とは睨んでいるものの、個人的にはZAKZAK記事の通りであって欲しいと心から願っています。ただ、そのほうが面白いからって理由だけです。

同作がバーレーンにまわっていくというストーリーはちんぷんかんぷんです。

Je ne peux pas l’accepter.

その話は受け入れいれられないヨってことです。

同国はバリバリ、アラビア語圏の国です。
「昨年には海外向けに英語版が完成、フランスなどで高い評価を受けている。それが縁で中東・北アフリカ地域で初めて創設されたバーレーン国際人権映画祭からオファー」
って書かれていますが、何の御縁もないんじゃないでしょうか。英語・仏語の字幕が付いてもバーレーンでは理解されません。篤志家がいてアラビア語字幕を付けてくれたのかもしれない。

フランスではまったく相手にされていない同作が、運が良くて、「第1回バーレーン国際人権映画祭でドキュメンタリー最優秀監督賞」を得ちゃったというのがことの顛末だろうという予測が調べていくうちについてきます。ある程度のリテラシーを持った人間ならば、映画祭自体に怪しい臭いを感じるでしょうし、その映画祭が出す賞はかぎりなく「黒に近い」と評価するでしょう。「ガンジー平和賞」のような扱いになるのではないかな。「ガンジー平和賞」受賞を肩書きに自己ピーアールしている日本人を調べたら、学会のイケダ先生と福永法源サン、ドクター中松の3氏が該当しました。ガンジーの子孫を名乗る人が寄付金を多く受けた個人・団体に賞をバンバン出して稼ぐビジネスなんだと云われていました。でも、たまには権威をつけるために、「本物の人」にも賞を出す。その路線で2004年に同賞を、イラク戦争の開戦に抵抗した数少ない米国下院議員の1人であるデニス=クシニッチ氏が受けてしまった(本人は賞がどんなものか確認していないんだと思いますよ)、それを事情を知らない日本に当時いたクシニッチ応援団が「アジアのノーベル平和賞ともいわれるガンジー平和賞をクシニッチ議員が得た」と日本でお節介に宣伝する。まあ、賞ビジネスってそんなものですと割り切れます。

「バーレーン国際人権映画祭」の「ドキュメンタリー最優秀監督賞」が存在することを前提に話をすすめると、この賞は初回から迷走しているように思えました。「Taizo」サイドに受賞というシーンを演出するための予算はありそうにない。「お金で受賞」という文脈はナシ。では、「Taizo」による権威づけが狙いか?!しかし、同映画には一つの賞を高く評価させるほどの権威はない。では、なぜ?

「日本人」「伝説の戦争カメラマン」「女性監督の初作品」「ベトナム戦争」「ドキュメンタリー」etc……。映画PR側が宣伝材料として提供した用語が彼らの中で「ヒット」したのかな?

あれこれと思考しているときに、同映画祭に広河隆一さん監督の名作「パレスチナ1948 NAKBA」が招待され、広河監督が自ら式に行ったということを本人名義の「編集長便り 2008年6月」という文書で知りました(http://www.daysjapan.net/editor/)。同映画祭に参加して、その模様を具体的に報告した貴重なルポルタージュです。

旅費・滞在費が全て主催者持ち……という扱いを受けた広河さんはこう結論づけています。

「国王だろうが企業だろうが、人権問題にきちんと取り組むなら歓迎だ」
しかし、バーレーン国際人権映画祭は
「『人権』をプロパガンダに利用したと言われても仕方ない」
どうしようない内容で、
「それの片棒をかついだ私は、反省することしきりである 」……。

広河さんの証言を要約すると、「バーレーン国際人権映画祭」はすべてが「バーレーン王国」の王室が「人権」問題に取り組んだというアリバイをつくるために演出したものでしかないこと。広河さんはあえて、「名士」としか云わず、個人名を出しませんが、誰が名義貸しをしたのか……調査してみる価値はありそうです。最低限のリテラシーのある人が行けばすぐに実態が分かっちゃう欠陥商品だった舞台裏を広河証言から知ることができます。

私の結論はこうです。

「バーレーン国際人権映画祭」は「第二回」の開催も危ういほどにできの悪い、王室が自作自演した「人権」ビジネスだった。
作品を審査員が鑑賞した……という最低限の証拠すら演出できないほどに体裁をなしておらず、映画祭としての権威は一切ない。
同映画祭に出品してしまったことを反省する広河さんに対して、その祭の「ドキュメンタリー最優秀監督賞」受賞を誇示して宣伝材料に遣っている「しょうもない」人たちが日本の映画業界にはいる。

監督へ伝えたいことは、

オーイ、中島監督!どこまで、分かっているの?こんな3流のペテンをひょっとして信じちゃったりしているの?!

ってことです。

「Taizo」という語を日本語検索サイトに入力して左クリックすれば、公式ホームページにすぐにたどり着けます。そこから、7月初旬に数日間、都内の映画館で「Taizo」が上映されること、そのためのメディア向け宣伝を映画PR側が先週初めから仕掛けた実態が判り、ZAKZAKクレジット記事はPR側が流した映画宣伝をそのまんまコピー&ペーストしてつくられんだろう……と大凡の推測がつきます。

とりあえず、「フランスで評価」という宣伝文句が私の範囲で引っかかり、映画を調べていくうちに「実態調査」にドップリとハマッてしまい、無駄な時間を浪費してしまいました。他にすべき優先事項は棚晒しです。これからやらなきゃ!!